ゲームエンジンを活用した課題解決方法がわかる! 導入事例集10選

友安 大輔 氏、平野 高広 氏、姫野 信幸 氏(株式会社エステック)

株式会社 電通総研

多面ディスプレイに対応した
高品質な走行環境をUnreal Engineで構築
実車感覚を実現するためのコンテンツを提供

株式会社 電通総研
製造エンジニアリング本部 エンジニアリング第2ユニット 先進DS技術部

【インタビュー 】友安 大輔 氏、平野 高広 氏、(株式会社エステック)姫野 信幸 氏

導入企業

株式会社 電通総研

電通総研は、1975年に電通( 現: 電通グループ)と米国General Electric Company(GE)の合弁会社として設立され、民間初のタイムシェアリング・サービス(TSS)事業を開始しました。その後、経済環境やテクノロジーの急速な変化に対応し、いち早くシステムインテグレーターを標榜するとともに、ビジネスモデルを変革。2024年には、電通国際情報サービスから電通総研へと商号変更し、コンサルティングおよびシンクタンク機能を拡充してリブランディングとリポジショニングを実施しました。現在は「システムインテグレーション」「コンサルティング」「シンクタンク」という3つの機能を連携させることにより、企業・官庁・自治体や生活者を含めた「社会」全体と真摯に向き合い、課題の提言からテクノロジーによる解決までの循環を生み出し、より良い社会への進化を支援・実装することを目指しています。

所在地
〒108-0075 東京都港区港南2-17-1

概要

電通総研とエステックは、車両の「感性評価」を実現するハイスペックなドライビングシミュレーター拠点「VDX Studio」を2022年9月に開設しました。シリコンスタジオは同施設で活用される主要コンテンツの一つとして、首都高速都心環状線(C1)の走行環境をUnreal Engineで構築。標識・建物・路面の細部まで作り込んだリアルな映像表現に加え、3面ディスプレイへの表示に伴う技術コンサルティングおよびパフォーマンス最適化まで支援しました。こうした包括的かつ継続的な技術支援を通じて、自動車メーカーやサプライヤーが求める、実車感覚に迫る評価環境の実現を支えています。

課題

  • 車両の「感性評価」が行える、映像・音・振 動を統合したハイエンドなシミュレーション環境のニーズが増加
  • ドライビングシミュレーターの没入感を高める高品質3Dグラフィックスの制作において、専門知識や制作リソースが不足

解決策

  • Unreal Engineと各種シミュレーション環境との連携実績を有するシリコンスタジオに、技術コンサルティングと3Dコンテンツ制作を依頼

効果

  • 実車運転時の感覚に近い環境で、感性評価を行える走行環境を実現
  • ドライビングシミュレーターのデモ・プロモーション活用が本格化し、顧客への訴求力が向上
  • 将来的なコース追加要望にも迅速対応できる運用体制が整い、自動車メーカーへの提案力が向上

感性評価を実現するバーチャル・シミュレーション拠点「VDX Studio」

電通総研は、シンクタンク・コンサルティング・システムインテグレーションという3機能を連携させ、企業・社会の課題解決に取り組む企業です。課題調査・提言からテクノロジーによる解決への流れを循環させることで「社会の進化を実装する」ことを目指しています。2025年12月には創立50周年を迎えました。
製造業における包括的なソリューション開発やコンサルティングサービスを提供しており、特に製品設計・開発領域では、コンピューター上で製品の挙動や性能を仮想的に再現・評価するCAE(Computer Aided Engineering)シミュレーションのパイオニアとして、製造業のDX推進を上流工程から支援しています。
2015年には一般的なオフィスに設置できる小型ドライビングシミュレーター・ソリューション「VTD(Virtual Test Drive)」の開発に着手しました。各種の車両シミュレーションソフトと連動しながら、開発の初期段階から車両の運動性能を体感評価できるプラットフォームとして、大手自動車メーカーを中心に採用が広がっています。

友安氏「VTDは、物を作る前に体感で評価できるプラットフォームとして開発したものです。従来のシミュレーションでは、車両の動きを最終的に2次元のプロットグラフで確認するしかなく、体感上で乗り心地が良いかどうかは実際に車が完成してからでないとわかりませんでした」

VTDビジネスを通じて自動車メーカーと議論を重ねるにつれ、さらに細かな動きを体感でき、五感を通じて感性評価ができるドライビングシミュレーターを期待する声が増えてきました。

株式会社電通総研 友安 大輔 氏

株式会社電通総研
製造エンジニアリング本部 エンジニアリング第2 ユニット 先進DS 技術部
部長 友安 大輔 氏

友安氏「小型シミュレーターでそれを実現することは困難です。そこでグループ会社のエステックが持つ音・振動技術の強みと組み合わせ、今まで評価できなかった領域まで手を伸ばせるシミュレーター設備を作ることにしました」

エステックは、1989年に日産自動車と米国SDRC( 現・Siemens)の出資により設立された技術コンサルティング会社です。2006年3月に電通総研グループの完全子会社となりました。NVH(騒音・振動・ハーシュネス)やダイナミクス(車両運動)を専門とし、CAE技術・実験技術・AI技術に加えて官能指標化・感情のモデル化技術まで含めた高度な技術支援を提供しています。
こうして両社のノウハウ・技術を結集させ、2022年9月に開設されたのが、現代の究極のデジタルツイン環境として提案する「VDX Studio(Virtual Driving eXperience Studio:ヴィデックス スタジオ)」です。エステックの技術開発センター音響実験棟(神奈川県横浜市金沢区)内に設立し、映像・音・振動・コンテンツの4要素を組み合わせることで実車感覚に限りなく近い感性評価を実現しています。
映像設備には超高精細な大型LEDディスプレイをコの字型に3面配置。音響には簡易無響空間に19台の多チャンネルスピーカーシステムを備え、ドライバーの耳位置でリアルに音を再現する立体音響システムを構築しています。モーションプラットフォームには新開発の中小型モーションベース(6軸、積載重量500kg、30Hz加振対応)を採用。電磁加振器でステアリングやシートを個別に加振することで、通常のモーションベースでは表現できない高周波振動域(約30Hz以上)も再現しています。
VDX Studioでは、同様の設備導入を検討している顧客向けの体験・コンセプト検証・導入支援に加え、設備を時間レンタルで利用できる「ウォークインサービス」、専任スタッフがバーチャルテストを代行する「プロフェッショナルサービス(試験業務委託・市場調査)」、さらに「一般被験者を招いた新機能の市場評価」まで、多様なサービスも提供しています。

VDX Studio の設備

VDX Studio の設備
3 面ディスプレイを組み合わせたドライビングシミュレーター環境

視覚情報が速度感を左右するため、高品質なCGコンテンツの実現が課題に

VDX Studioでドライバビリティ、操縦安定性(低G領域)、乗り心地、NV(騒音・振動)といった評価領域で実車さながらの検証を可能にするためには、動きの再現だけではなく、映像の品質も重要な役割を担います。

平野氏「速度感を左右するのは、視界から入ってくる情報の質と量です。バーチャルのコース上にガードレールや街灯などのオブジェクトを配置したり、周辺の建物や路面の質感を充実させたりすることが重要です。しかし私たちはシミュレーションをバックグラウンドとした技術者が中心で、チームの人VDX Studio の設備3 面ディスプレイを組み合わせたドライビングシミュレーター環境数も限られています。大規模なコースの管理や再現度の向上は、自社だけでは難しい状況でした」

当時、シミュレーションソフトの世代交代が進む中で、電通総研では映像フロントエンドとしてゲームエンジン(Unreal Engine)を活用する方針を社内で検討していました。一方でCGコンテンツの制作には専門パートナーが不可欠という認識も明確になっていました。そこでコンタクトを取ったのがシリコンスタジオでした。シリコンスタジオが制作したCGコンテンツの事例が目に留まったのです。

平野氏「シリコンスタジオは、私たちが使っていたシミュレーションソフトとUnreal Engineとの連携実績があったので、取り組みについてスピーディーに理解していただけるのではないかと期待しました。話を進めると、過去の事例や経験が、私たちがドライビングシミュレーターで実現したいことと合致しており、非常に強力なパートナーだと判断しました」

実はシリコンスタジオとの協業は、首都高速都心環状線(C1)に先立ち、関内エリアの市街地コース制作から始まっていました。電通総研から路面データの提供を受け、関内周辺約1km四方の街並みを1.5kmの周回コースとして構築しました。この実績が両社の信頼関係の礎となり、VDXStudio向けC1走行環境制作の依頼へとつながりました。

株式会社電通総研 平野 高広 氏

株式会社電通総研
製造エンジニアリング本部 エンジニアリング第2 ユニット 先進DS 技術部 2 グループ
シニアコンサルタント 平野 高広 氏

首都高の走行環境をUnreal Engineで段階的に構築

プロジェクトの中心となったのは、C1の走行環境制作です。

姫野氏「ドライバーがさまざまな刺激を受け、実車と同様の生体的な反応を引き出せるような環境を作りたいと考えました。人間は認知・判断・行動というプロセスで運転をしますが、認知に非常に大きな影響を与えるのが映像です。C1は自動運転の評価でも広く採用されているコースで、他車両の交通も多く、映像や音等の外部環境の再現が重要になります。」

株式会社エステック 姫野 信幸 氏

株式会社エステック
ソリューション創発本部 技術戦略部
シニアプロジェクトマネージャー 姫野 信幸 氏

電通総研とエステックでは、実際にC1を走行し、車両に取り付けたセンサーで路面プロファイルを計測するとともに、映像・音・振動データを収集しました。さらに車両モデルとのバリデーションを実施し、シミュレーション精度を高めています。
シリコンスタジオでは、電通総研から提供された路面プロファイルを基に、道路データを自動生成する独自ツールを構築。また、多面ディスプレイ表示に伴う同期ズレの解消や運用効率化のためのコンサルティングを実施しました。道路データには側壁やトンネル、カーブ区間の表示、路面塗装などが自動で付与される仕組みです。さらにシリコンスタジオが得意とするPLATEAU(国土交通省が主導する3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト)の活用技術を応用し、C1らしい景観を再現しています。
一方で、映像の作り込みが進むと表示システムへの負荷が増し、フレームレートが低下するリスクが生じます。シリコンスタジオは映像品質とリアルタイム処理性能のバランスを継続的にチューニングすることで、感性評価に求められる高い没入感と応答性を両立。多面ディスプレイの映像同期についても、Unreal Engineの最適化を行っています。

友安氏「映像が重すぎてフレームレートが落ちると正しい評価ができなくなってしまいます。品質向上とパフォーマンス確保のバランスは常に難しい課題でしたが、シリコンスタジオにはその点をご理解いただいた上で、丁寧に対応していただきました」

初版納品から約2年を経た2025年より、VDX Studioの特徴をアピールできるコンテンツとして本格運用が始まっています。

首都高速都心環状線(C1)のCG 走行映像

首都高速都心環状線(C1)のCG 走行映像
一ノ橋JCT 付近のシーン

要望を汲み取った期待以上の完成度と運用体制を高く評価

シリコンスタジオが手がけた走行環境に対する評価は高いものでした。

平野氏「路面の色むらやタイヤの轍(わだち)を追加していただいたのですが、正直なところ速度感への影響は限定的だと想像していました。ところが実装してみると、想定以上に雰囲気が向上していたのです。ゲーム開発や映像制作によって培ってきた『ノウハウ』があるからこそ、リアルに再現できたのでしょう。具体化しづらい依頼でも意図を汲み取っていただき、よりよい仕上がりにしていただける点を大変ありがたく思っています」

姫野氏「2年前の段階では映像が重たくてわずかな遅延が生じており、人間の感覚がそれに反応して違和感が生まれることがありました。そのような課題も解消され、非常に精細なものに仕上げていただいたと感じています」

友安氏「一般的にドライビングシミュレーターは実車との運転感覚の差異が生じるため、『シミュレーター酔い』が起きやすいものです。ところがVDX Studioを普段から車酔いしやすいという人に利用してもらうと、『意外と酔わない』という感想をいただくことが度々あり、私たちが目指してきたレベルに近づいてきているという実感があります」

姫野氏「2年前の段階では映像が重たくてわずかな遅延が生じており、人間の感覚がそれに反応して違和感が生まれることがありました。そのような課題も解消され、非常に精細なものに仕上げていただいたと感じています」

コンテンツの仕上がりに加え、継続的な運用体制への評価も高まっています。

平野氏「単純に高品質なCGを作るだけでなく、作業を効率化するツールや、データを効率的にやり取りするためのフォーマット整備なども丁寧にアレンジしていただきました。今後、路面データをアップデートしたい場合も、決まった形式のファイルを渡すだけでスムーズに対応いただけるスキームが整っています。将来の運用性まで配慮いただいている点は、大変助かっています」

友安氏「C1以外のコースを作りたいというお客様の要望が出てきたときも、どのようなデータを渡せばどれくらいの期間で対応いただけるか、目算が立てられる状態になっています。2年間の取り組みを経たことで、自動車メーカーとの商談でも自信を持ってご提案できる強みとなっています」

Unreal Engine で構築したCG 走行映像

Unreal Engine で構築したCG 走行映像
首都高速都心環状線(C1)の走行シーンを再現

EV・自動運転・新分野へ広がるシミュレーション活用の可能性

VDX Studioは今後さらなる進化を目指しています。

平野氏「今後はEV向けの検証などトレンドに合わせたコンテンツの拡充や、大規模な交通流を再現するシミュレーションソフトとの連携も進めていきたいです。さらに、自動運転が前提となる社会を見据えて、単なる運転評価にとどまらず、車内で映画を見たりショッピングをしたりするようなモビリティ体験までシミュレーションできるプラットフォームへと発展させていきたいと考えています」

また、ドライビングシミュレーターの知見を自動車以外の分野に応用する動きも始まっています。

友安氏「建設機械や農業機械メーカーへのご支援も始まっています。例えば建物の解体作業で『どこから壊すか』といった経験則をシミュレーターで効率よく伝えることができれば、オペレーター不足という社会課題の解決にも貢献できます。今後、こうした拡張コンテンツをシリコンスタジオさんにお願いする場面も出てくると思います」

姫野氏「C1に続く別のコースや、現地での走行試験が難しい海外の道路環境なども、今後お客様からのニーズが出てくるでしょう。その際にシリコンスタジオさんには、私たちと同じスピード感で対応いただけることを期待しています」

シリコンスタジオは引き続き、細部まで作り込んだ高品質な走行環境の制作支援をはじめ、多角的な視点から電通総研のVDX Studioの発展を支援してまいります。

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