日野自動車株式会社 デザインセンター 高山様 玉ノ井様 今井様

日野自動車株式会社

商用車のリアルな「使用体験」を実現して
設計・デザインの早期検証に役立てる
シミュレーター開発のための走行環境を開発

日野自動車株式会社
デザインセンター デジタルクリエイト1グループ

【インタビュー 】高山 仁志 氏、玉ノ井 和男 氏、今井 久嗣 氏

導入企業

日野自動車株式会社

「人、そして物の移動を支え、豊かで住みよい世界と未来に貢献する」という使命に基づき、1942年の設立以来、トラック・バスを通じて顧客と社会に価値を提供してきました。これまで積み重ねてきた実績と知見や、CASE技術(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)などを活用し、持続可能な次世代の「商用モビリティ」を提供することで、将来にわたって顧客や社会に必要とされ続ける存在を目指しています。

所在地
〒191-8660 東京都日野市日野台3-1-1

概要

日野自動車株式会社では、商用車の「使用体験」を開発における早期の段階から関係者に共有してデザインの議論を活性化することを主目的に、手軽に運用できる走行シミュレーターを発しました。シリコンスタジオでは、実際の交通ルールや対向車の影響などを考慮しながら仮想空間を走行する自動車のデザインを評価できる、現実に近い見た目の外部環境を「Unreal Engine」で構築。同社はこの車窓からリアルな景色が広がる走行シミュレーターを活用することで、商用車の安全性能や快適性の向上はもちろん、カーボンニュートラル社会の実現にもつながる開発にも役立てようとしています。

課題

  • 走行シミュレーターで運転席から見えるリアルかつ美麗な環境を表現したかった
  • ゲームエンジンによる走行環境シーンのデータ生成に関する知見が不足していた

解決策

  • Unreal Engineの開発実績が豊富で技術力が高いシリコンスタジオに委託
  • 独自の市街地アセットとゲームロジックの活用で費用を抑えつつ短納期で走行環境を開発・提供

効果

  • 手軽に運用できる走行シミュレータにより、現実に近い「使用体験」で早期の評価が可能に
  • 早期にデジタル上でコンセプトカーを走らせる事で、より具体的な議論を引き出せるように

ドライバーが求める機能とデザインを磨く

社会全体でのカーボンニュートラル実現に貢献すべく、日野自動車では製造するトラック・バスといった商用車のライフサイクルを広く捉え、「つくる・運ぶ・使う・廃棄する」すべてのプロセスでCO2排出量を削減するためのさまざまな取り組みを進めています。2023年10月には、取り組みの方針と具体策をまとめた「カーボンニュートラルに向けた日野の取り組みについて」を公表。その中のイメージ動画では、先端が細長く運転台の中央にハンドルを配置した、空力性能が高いトレーラーの走る様子をCGで描き、さらにドライバーのワークスタイルの変化も示唆しました。
このイメージ動画には、同社デザインセンターが開発した走行シミュレーターによって描かれたシーンが多分に使用されています。開発の背景は、次のようなものでした。

 

デザインセンター デジタルクリエイト1 グループ
グループ長 高山 仁志 氏

デザインセンター デジタルクリエイト1グループ
グループ長 高山 仁志 氏

高山氏「具体的な仕様が固まっていない開発の初期・企画段階にて、開発関係者と『使用体験』を早期に共有するなどして議論を活性化させる手段を検討してきました」

今井氏「これまでもVRやMR(複合現実)のゴーグルを装着して、ドライバーの目線からランプの点灯や引き出しの開閉といった体験を検証することはできましたが、それは車両が止まった状態での実行に限定される上に、車窓から見える対向車や天候から受ける影響までは再現できませんでした。走行時の状態で周囲の環境を変更しながら、ピラー(柱)の影響やミラーの視認性などを検証してデザインに反映させたいというリクエストを受けて、走行シミュレーターの開発がスタートしました」

 

デザインセンター デジタルクリエイト1 グループ
今井 久嗣 氏

デザインセンター デジタルクリエイト1 グループ
今井 久嗣 氏

デザイン部門で手軽に運用できる走行シミュレーターが実現すれば、開発の早い段階で環境の変化によって受ける影響を検証したり、精度の高いプロダクトイメージを共有できたりするため、後工程の品質や開発効率の向上も期待できます。
同社がこのように車両の外側だけでなく内側からのデザイン検証にも力を注いでいる背景には、商用車特有の理由があります。

玉ノ井氏「商用車は道具として高い操作性と視認性が求められるため、見た目の美しさと整合を取りながらドライバーが使いやすいようにデザインしなければなりません。走行シミュレーターによって気づきを得ることで、よりドライバーへの配慮を反映していくことができます」

 

デザインセンター デジタルクリエイト1 グループ
玉ノ井 和男 氏

デザインセンター デジタルクリエイト1 グループ
玉ノ井 和男 氏

 

デザイン評価に適した高品質なグラフィックのシミュレーターを模索

このような経緯から日野自動車では2020年にデザイン評価用の走行シミュレーター開発が始まりました。

今井氏「走行シミュレーターの開発に着手する前に、デザイン部で使っていたCGのビジュアライゼーションソフトやVRを使って開発できないかを確認してみたのですが、どれもデザイン検討に特化した製品で、我々が求めた機能を持っていませんでした。また、きれいな静止画やVR向けのラフなCGを出すことはできても、リアルタイムできれいに動くCGを生成することは難しかったのです」

開発始動後の1年目は、デジタルクリエイト1グループを中心とする日野自動車内部の人財や技術のみで、できる範囲内での開発を進めました。
開発プロジェクトチームが最初に時間をかけたのは、走行シミュレーターに求める機能の定義だったといいます。まず目指したのは、基本的な機能である「走る」「止まる」「曲がる」の実現でした。次に、車両が走る市街地や郊外の高速道路など商用車の使用体験に即した環境データ、対向車や天候といった動的要素を開発して、段階的に走行シミュレーターの機能を高めていく構想を描きました。
また、開発過程でもより使いやすいシミュレーターとなるように、誰でも簡単にデータを変更でき、午前中に準備を始めれば午後には走らせられるようなスピード感も欲していました。ほかにも社内の承認会など、イベントで見せるコンセプトムービーを制作する際に、そのまま活用できるような機能も構想したといいます。
当初のプロジェクトチームは、開発中だった小型トラックを対象に、走らせるための基本機能を実現。このときの評価で重視したのは、「デザイン評価に適したものか」という観点でした。

高山氏「目に見える部分の表示が高精細であること、デザイン評価に使えることが第一です。実際に走行シミュレーターを利用するチームにも試してもらい、そのチームの反応を見ました」

日中と夕方で変わる景色の変化も走行シミュレーターで確認できるようになっている。

日中と夕方で変わる景色の変化も走行シミュレーターで確認できるようになっている。

日中と夕方で変わる景色の変化も走行シミュレーターで確認できるようになっている。
出典:国土地理院WEB サイト 地理院タイルを加工して作成

多方面の要件に対して技術力と提案力で応えたシリコンスタジオ

開発プロジェクトが3年目に差しかかるころ、日野自動車では走行環境データに動的要素を加えるなどの高度化を目指すようになり、他社との協業によるゲームエンジンの採用を模索していました。

今井氏「その頃はUnreal Engineを試しに使ってみて、その可能性に手応えを得ていました。とはいえ、何から始めればよいかもわからない状況です。各自がWebサイトで調べたりコミュニティに顔を出したりして情報収集してみたものの、自分たちだけで進めたのではプロセスの正解が導き出せないのではないかと不安に思いました。自分たちで内製することも大事ではあるのですが、専門知識を持つパートナーも見つけようという話になったのです」

そこで行動範囲を広げ、Unreal Engine の公式イベントである「UNREAL FEST」をはじめ、ゲームエンジンの産業利用ソリューションを展示するイベントにも足を運ぶようになりました。その中で見聞きした情報も交えて数社を比較し、「技術サポート」や「業務委託できる内容」、「手がけているコンテンツ(アセットやVR対応など)」、業務知識などをポイントにパートナーの選定を進められたそうです。
最終的に、日野自動車が目指す走行シミュレーターを早く実現できそうなパートナーだと判断されたのが、当社シリコンスタジオでした。

玉ノ井氏「シリコンスタジオを知ったのは機械学習用の画像データを生成するソリューションを発表した頃で、そのクオリティが非常に高かったことが印象に残っています。また、経年劣化する道路表示や標識のアセットも持っているという紹介を受けて、ここまでできるのならお願いしてみたいと思いました」

今井氏「委託して納品してもらうだけの関係ではなく、当社内でデータを保有して改変できる『手の内化』の方針に協力的な印象を受けました。また、先行研究であるため予算に余裕がないことを正直に伝えたところ、できないと断るのではなく、できるだけ制作費用を抑えられる方法を提案してくれました」

当社がご提案したことは、既製アセットの活用と段階的な開発でした。当社は独自開発の市街地アセットを保有しているため、これを応用することで費用を抑えつつ短納期を実現できると判断されたといいます。また、さまざまな要件を一度に実現するのではなく、年単位でフェーズを区切り、段階的にご支援する案を示しました。こうした提案は他社には見られなかったようです。

シリコンスタジオが日野自動車に納品した道路シーンのグラフィック。高精細なデザインだけでな く走行する様子も確認できる機能が特徴だ。

シリコンスタジオが日野自動車に納品した道路シーンのグラフィック。高精細なデザインだけでな く走行する様子も確認できる機能が特徴だ。

シリコンスタジオが日野自動車に納品した道路シーンのグラフィック。
高精細なデザインだけでなく走行する様子も確認できる機能が特徴だ。

Unreal Engineを使用してリアルな道路状況を再現む

日野自動車では、実際の交通ルールに従った対向車によって受ける影響などを考慮しながら仮想空間を走行させてデザイン評価できる走行シミュレーターをUnreal Engineで開発し、現在さらに高みを目指しているところです。
これまでの当社による支援内容は2つのフェーズに分かれます。第1フェーズでは走行する対向車や建物、道路標識や信号機、横断歩道、停止線といった道路付属物など、当社独自開発による3Dモデルのアセットを用いた道路シーンを作成・納品しました。その後、第2フェーズとして、このプロジェクト専用に制作した、架空ではありながらもリアルな近未来をイメージさせる高速道路のサービスエリアを含むシーンも作成・納品しています。
作成したこれらのシーンでは、自動走行するための走行ルートパスと車両の挙動モデルを実装し、自車と他車、ならびに他車同士が衝突することなく物理シミュレーションによって自動走行する様子を確認できます。
モデルは衝突回避ブレーキの発動距離、停止後のブレーキ解除およびアクセルのタイミングなど、Unreal Engineのロジックを組み合わせて作成されており、さらに車種ごとの特性に合わせてモデルのチューニングを繰り返すことで開発されました。また、開発工数は限られていましたが、Unreal Engineの機能を活用することで時間帯による日照条件や天候変化を反映できるようにし、コントローラーを使ったフリードライビングモードなども実装しています。

今井氏「関係者からの評価も高く、本当にその場にいるようだと驚かれるほど違和感のない走行シミュレーターを開発できました。当初は環境データを自分たちでそろえようと考えていましたが、こうしてベースとなるデータをご用意いただいたので、私たちは開発に注力できました」

具体的な成果の1つが、冒頭で紹介したイメージ動画です。
実際にさまざまな部署の方が走行シミュレーターに乗り、運転体験をしたうえでの感想を出し合いながらコンセプトを詰めていきました。この走行シミュレーターは、イメージ動画制作の効率化にも貢献しています。

技術とクリエイティブを兼ね備えるシリコンスタジオを高く評価

これまでのシリコンスタジオの実績に対して、日野自動車はどのような評価をされているのでしょうか。

玉ノ井氏「Unreal Engineの知識や技術力があることに加えて、我々のイメージをうまくくみ取ってアセットに反映していただけるなどデザイン面でも優れており、技術とクリエイティブの両方を兼ね備えた頼れるパートナーです。また、予算に配慮した柔軟なご提案をいただける上に、プロジェクトに伴走していただけることをうれしく思っています」

日野自動車からは、自社で独自に運用してツールを再利用できるようにする「手の内化」に向けての協力も高く評価いただきました。

今井氏「ツールはパッケージ化されたものではなく、中身を閲覧可能なプロジェクト形式で提供いただきました。プロのノウハウを学べるので、機能追加やゲームエンジンの教育にも役立てられます。さらに、納品データに関して自由に質問してくださいとも言っていただけて安心しています」

 

走行シミュレーター使用時の車内からの見え方

 

車両デザイン検討フェーズでの実運用に加え 全社規模での利用を目指す

プロジェクト発足から5年目に入った現在、実用段階に達している一部機能については車両開発のデザイン部門で実際に利用可能な状態となっています。

高山氏「本格的な活用はこれからですが、デザインセンター内での先行研究では感触がよかったため、開発プロセスに組み込む準備をより具体的に進める予定です」

今井氏「小回りの利く設計ですので、開発以外にも社員教育など広く応用できそうです。他部署や関連会社への提供が現段階での目標です。また、Unreal Engineの活用は他部署でも関心が高いトピックで、情報共有などの取り組みが広がりつつあります」

最後にこれからゲームエンジンを活用しようと検討している企業に対して、自社での経験をもとに助言をいただきました。

今井氏「まずはゲームエンジンを導入して触ることが大切です。ただ、ゲームエンジンは何でもできるツールだけに、何を実現したいのかを早い段階で明確にしておくことが最も重要だと思います。そして相談できるパートナーを見つけながら一緒に開発を進めていけば、自分たちが思い描いたものが作れるのではないでしょうか」

シリコンスタジオは、引き続き情報提供や機能追加、精度向上などの支援を通して、日野自動車やさらにその先のお客様の体験向上や社会課題解決に貢献したいと考えています。

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