- 自動車・モビリティ
2026.02.13
自動運転・ADAS時代のNCAP最新動向。安全評価はどう変わる?
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近年、自動運転や高度なADASは「どこまで任せられるか」を競うフェーズに入り、安全性能評価も従来の「衝突時性能」を中心とした枠組みから、「賢い介入と人との協調」を重視する方向へと変化しつつあります。
本記事では、各国NCAPの最新動向とEuro NCAP 2026年プロトコル改訂、さらにDMSやシミュレーション技術の活用事例までを整理し、デジタル技術の活用が安全評価や開発プロセスの在り方をどのように変えつつあるかを技術視点で解説します。
NCAPとは何か?自動車安全評価の国際基準と役割
NCAPは「New Car Assessment Program」の略で、公的機関などが新型車の安全性能を評価し、結果を公表する仕組み・試験プログラムです。ここでは、NCAPの概要や各国へ与えた影響などをご紹介します。
NCAPの基本と役割
NCAPは、新車の衝突安全性能や予防安全性能などを一定の試験条件に基づいて評価・採点し、その結果を消費者に公開する仕組みです。1979年に米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が正面衝突試験結果を公表したことを契機に、欧州やアジアなど各地域で同様の評価プログラムが整備され、現在は各国・地域ごとに独立したNCAPが運用されています。
NCAPがもたらした影響
NCAPが評価結果を星の数などで示すことで、消費者が安全性を重視して車を選びやすくなり、自動車メーカーやサプライヤーに対して安全技術の開発・導入を促す動機を与えてきました。また、各国におけるNCAPの導入と評価基準の高度化は、法規とは別の形で安全性能の向上を競わせる仕組みとして機能し、交通事故による死傷者低減や安全意識の向上に一定の役割を果たしています。
各国・地域のNCAP制度と地域性
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日本のJNCAP、欧州のEuro NCAP、米国のUS NCAP(NHTSA NCAP)をはじめ、韓国のKNCAP、中国のC-NCAP、南米のLatin NCAP、オーストラリア・ニュージーランドのANCAP、ASEAN諸国のASEAN NCAPなど、NCAPは各国・地域ごとに独立した制度として運用されています。対象地域や運営主体、評価項目、レーティング方法(星評価やランクなど)は異なりますが、前面衝突や側面衝突試験といった基本的な衝突安全評価を軸に構成されている点は共通しており、その上で各地域の交通環境や政策意図を反映した評価項目が追加されています。
NCAPを支える国際的な取り組みとネットワーク
Euro NCAPは、ヨーロッパで販売される自動車の安全性を、衝突実験および衝突回避・予防安全性能試験によって評価し、その結果を公表する非営利の自動車安全評価プログラムです。詳細な評価基準と厳格なテストプロトコルを特徴とし、評価項目や基準設定において先行的な役割を担っており、各地域のNCAPに大きな影響を与えてきました。
一方、Global NCAPは、新興市場のNCAPや類似評価制度の立ち上げや高度化を技術面から支援する国際組織です。各地域のNCAPが評価手法や知見を共有するための協力プラットフォームとして機能しています。ASEAN NCAPなどの比較的新しいNCAPも、こうした「NCAPファミリー」の一員として、車両安全性能の向上や消費者への安全意識啓発を目的に活動しています。
Euro NCAPの安全評価体系と2026年プロトコル改訂のポイント
Euro NCAPは、消費者にわかりやすい安全情報を提供するとともに、自動車メーカーに対してより高い安全性能の実現を促すことを目的として1997年に設置されました。ここでは、Euro NCAPの現行の安全評価体系を整理したうえで、2026年に予定されているプロトコル改訂のポイントを解説します。
Euro NCAPの評価項目
現行のEuro NCAPは、成人乗員保護(Adult Occupant Protection)、子供乗員保護(Child Occupant Protection)、交通弱者保護(Vulnerable Road Users)、安全支援機能(Safety Assist)の4つのカテゴリーで車両安全性能を評価しています。
それぞれの試験結果は得点化され、総合評価として星の数に換算して公表されます。
評価では衝突性能だけでなく、先進運転支援システムの搭載状況や性能も重視されており、自動緊急ブレーキ(AEB)などの安全支援機能が標準装備されていない場合には評価点が大きく制限されるなど、実使用を前提とした厳しい基準が採用されています。
2026年からの主な改訂点
Euro NCAPでは2026年からの新プロトコルとして、従来の評価体系を再構成し、「安全運転(Safe Driving)」「衝突回避(Crash Avoidance)」「衝突保護(Crash Protection)」「事故後安全(Post Crash Safety)」という4つの安全ステージに基づく新たな評価枠組みの導入計画を発表しています。
新体系では、各ステージごとに評価結果がスコア化され、パーセンテージ表示によって安全性能の達成度が示される予定です。試験および採点方法の見直し、現実の事故パターンをより反映した衝突回避シナリオの拡充、多様な体格や姿勢を考慮した衝突保護評価、さらには事故後の救出や高電圧バッテリーの安全性など、ポストクラッシュ要件の強化が盛り込まれる見込みとなっています。
ADASの進化に伴う世界各国NCAP評価基準の動向
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NCAPは世界各国・地域において、自動ブレーキをはじめとするADASや、将来の高度運転支援を見据えた機能を段階的に取り込みながら、安全評価基準の更新を進めています。ここでは、主要なNCAPの評価基準の特徴と、その進化の方向性を整理します。
US NCAPにおける評価対象の拡張と運用方針
米国のUS NCAP(NHTSA)では、2024年の最終決定通知において、既存の先進運転支援システムに加え、ブラインドスポット警報(BSW)、ブラインドスポット介入(BSI)、車線維持支援(LKA)、歩行者自動緊急ブレーキ(PAEB:昼間・夜間)を新たに対象技術として組み入れる方針が示されました。自動緊急ブレーキ(AEB)の評価要件強化とともに、2024〜2033年の10年間にわたるNCAP運用の枠組みが提示されています。
また、これに続き2025年9月22日の告示で、クラッシュワースネスにおける歩行者保護評価および一部新規ADAS評価の適用時期が1年延期され、2027年モデルからの反映とするスケジュールが公表されました。US NCAPでは、自動車メーカーの開発・準備期間に配慮しつつ、段階的に評価項目の拡充を進める方針が取られています。
JNCAPにおける総合評価と今後の評価拡張
JNCAPは、国土交通省および独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が連携して担う日本の自動車アセスメントとして、衝突安全性能と予防安全性能を統合し、さらに緊急通報システムの装備状況も含めた総合評価を提示する枠組みを採用している点が特徴です。
予防安全分野では、対車両・対歩行者・対自転車の衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱関連機能、踏み間違い時加速抑制装置などを評価対象とし、それぞれの効果を点数化、ランク表示する仕組みが整備されています。
今後はドライバーモニタリングシステムや高度運転支援など、「自動運転を見据えた運転支援技術」を新たな評価対象として導入していく方針です。
ASEAN NCAP/C-NCAPなどアジア地域における評価の高度化
ASEAN NCAPは、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域で販売される新車の安全性能評価プログラムです。2012年からマレーシア道路安全研究所(MIROS)が中心となって実施され、成人乗員保護(AOP)を星評価、子供乗員保護(COP)をパーセンテージ表示で示す評価手法を採用しています。
2017年以降は二輪車ユーザーのリスクを重視し、2021–2025期、2026–2030期といった複数フェーズに分け、Euro NCAPのプロトコルを参照しながらクラス分けや評価要件の高度化が進められてきました。
また、ASEAN NCAPでは、日本のJARIや中国のCATARCなどを試験機関として活用しており、C-NCAPを含むアジア域内で試験リソースを連携させながら評価の高度化と信頼性の向上が図られています。
自動運転を見据えた評価設計への変化
NCAPは、衝突時の受動安全評価に加え、自動ブレーキなどのADAS性能を重視した評価へとシフトしてきました。将来の規制化を想定した技術や機能を法規に先行してNCAPで評価対象とし、その知見を制度設計に反映して検討を進めていくアプローチが各国で取られています。
日本の自動車アセスメントにおいては、「自動運転技術」という表現をあえて用いず、「自動運転を見据えた運転支援技術」と整理したうえで、ドライバー異常時対応システムなどを含む高度運転支援機能を評価に取り込む方針が示されています。自動運転そのものに先立ち、その前提となる運転支援技術の安全性を段階的に検証していく方針です。
DMS・乗員検知・姿勢推定がNCAP評価で重視される背景
Euro NCAPは、自動運転や高度ADASの普及を踏まえ、運転者の注意とシステム関与を安全評価の重要な軸として位置づけつつあります。ドライバーの状態をリアルタイムに把握し、必要な場面でのみ警告や介入を行うシステムを評価対象として取り込む方針が示されています。
DMSや乗員検知・姿勢推定は、視線や頭部の動きなどから脇見や疲労の兆候を捉え、過度な警報を抑えながら安全性向上を図るための基盤技術です。ここでは、これらの技術の役割、NCAP評価における予防安全システムおよび注意喚起評価の方向性について解説します。
DMSおよび乗員検知・姿勢推定技術の役割
Euro NCAPは2026年以降のプロトコルにおいて、リアルタイムでドライバーの状態やパフォーマンスを監視するシステムを評価対象に含め、注意散漫や関与低下が検知された場合にのみ警告や介入を行う高度な安全システムを重視する方針です。
例えば、ボルボやポールスターでは、ドライバーの目や頭の動きを常時トラッキングし、集中度に応じてADASの感度を調整する仕組みを採用しています。こうしたDMSや乗員状態の推定技術は、安全装置が常に警告を発する「鳴りっぱなし」の状態を避け、本当に必要な瞬間にのみ作動させるために重要な要素です。
NCAP評価における予防安全システムと注意喚起評価の方向性
Euro NCAPは、これまでレーンキープアシストや速度制限警報、自動ブレーキといったADASの搭載有無や機能性能を中心に評価してきました。一方、今後は警報や介入がドライバーに与える影響にも着目し、過度な警告や不要な介入が運転行動に与える負担を抑制できるかを評価する方向へとシフトしています。
現実の運転環境において、頻繁な警告音や唐突な介入は驚きや不快感を招き、かえって安全性を損なう可能性があります。そのため、運転者の注意と関与を維持しつつ、必要なときだけ適切に介入する予防安全システムが高く評価される傾向です。また、ボタン配置やタッチスクリーンの視認性・操作性といったヒューマンマシンインターフェース(HMI)の分かりやすさも、「注意喚起と操作性」の観点から評価対象として重視されつつあります。
3DCGとシミュレーションを活用したDMS開発・評価の実例
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3DCGとシミュレーションは、現実の車両試験では再現が難しい運転環境や多様な乗員条件を仮想空間で再現し、ドライバーモニタリングシステム(DMS)の精度検証やAI向け学習データとしての教師画像に活用できる技術です。
ここでは、シリコンスタジオが提供する3DCGソリューションを活用し、三菱電機株式会社が次世代ドライバーモニタリングシステムの開発に取り組まれた事例を紹介します。
DMS開発における3DCGが果たす役割
シリコンスタジオは、「人物(顔・表情)認識用CG生成」など、機械学習向け教師画像の生成を目的とした3DCGソリューションを展開しています。
このソリューションでは、年齢、肌の色、骨格といった個人差をパラメーターとして制御し、多種多様な顔や表情をさまざまな光源、カメラ位置、レンズ条件で生成することが可能です。太陽光が顔に直接当たるシーン、飲み物や帽子、マスク、髪型、ヒゲといった遮蔽物、人種差や天候条件など、実車環境では再現・撮影が難しい条件を3DCGで再現することにより、多数の教師画像を効率的に生成することができます。
このアプローチは、DMSにおける顔認識や骨格検出アルゴリズムの精度向上に寄与するものです。
三菱電機による次世代DMS開発への適用
三菱電機株式会社は、ダッシュボード中央に配置した広角カメラを用いて、運転席に加え助手席や後部座席まで検出範囲を拡大し、乗員認識や生体センシングによる安全性・快適性の向上を目指す次世代DMSを開発しています。複数乗員を対象とした検知を可能とする取り組みは、車内監視用途として特徴的な技術です。
同社では、実車試験で蓄積したノウハウと3DCGシミュレーションを組み合わせ、体格の異なる男女や子供が運転席・助手席に着座するシナリオを仮想空間に生成し、DMSの検証を行いました。顔のサイズや座高などの限られたパラメーター入力から多様な体型を再現できるリアルタイム3DCG技術を採用することで、骨格・体格検出用のサンプル画像を大量に確保し、認識精度の向上に取り組んでいます。
シリコンスタジオは、三菱電機株式会社が進める次世代ドライバーモニタリングシステム(DMS)の開発に対し、さまざまなユースケースを想定した検証シーンが再現可能な3DCG技術を提供しました。詳細は以下でご確認いただけます。
自動運転時代に再定義される「安全」とNCAPの役割
NCAPは、衝突試験による受動安全評価に加え、自動ブレーキなどの予防安全性能、歩行者をはじめとする交通弱者保護性能、チャイルドシートの安全性評価などを組み合わせ、車の安全性を多角的に示す仕組みとして発展してきました。近年では、将来の法規化が見込まれる評価項目を先行的にNCAPで扱い、その結果や知見をもとに制度設計や導入スケジュールの検討が進められる動きも見られます。
今後、自動運転技術や高度運転支援の進化を背景に、NCAPは世界各国・地域ごとの制度として独立性を保ちつつも、評価項目や基準の継続的な見直しを通じて、交通安全の向上と安全技術に対する信頼の醸成に重要な役割を担い続けることでしょう。
自動運転時代の安全を支えるNCAP -評価基準は次のステージへ-
自動運転・ADASの高度化に伴い、NCAPは衝突試験を中心とした枠組みから、運転者状態の把握、予防安全性能、HMI設計までを含む統合的な安全評価プラットフォームへと拡張しつつあります。各国NCAPにおける評価基準の更新や、Euro NCAP 2026年プロトコルの方向性、さらにDMSや3DCGシミュレーションを活用した開発・検証事例が示すように、安全評価は一度きりの試験ではなく、データとモデルを活用して継続的に高度化していくプロセスへと変化しています。
NCAP対応は、単なる評価取得にとどまらず、開発初期から安全要件を織り込むための指針として機能し始めており、次世代モビリティの競争力や信頼性を左右する局面に入りつつあるといえるでしょう。
シリコンスタジオでは、3DCGやシミュレーション技術を活用した学習データ生成、および検証環境の構築を通じて、次世代モビリティ開発高度化への取り組みを支援しています。NCAPや高度運転支援を見据えたシステム開発において、データ生成や検証プロセスに課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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