その他
建築・土木業界
自動車・モビリティ業界
製造業界
2024.09.13
産業分野での活用が進むゲームエンジンとは?活用メリットや活用例を紹介
ゲームエンジンは、ゲームの開発を効率的に行うことができるオールインワンの開発環境です。
近年、ゲーム開発以外にも、産業分野でデジタルツインによるシミュレーション環境を構築する際などで、ゲームエンジンの活用が進んでいます。
本記事では、産業分野での活用が進むゲームエンジンとはどのようなものなのか、代表的なゲームエンジンや特徴、メリット、活用例などをご紹介します。
ゲームエンジンとは
ゲームエンジンとは、キャラクターやオブジェクトなどの3Dアセットをはじめ、アニメーション制御、物理法則、グラフィック機能や音響、資格エフェクト、ネットワークプログラミングなど、コンピューターグラフィックスによるアプリケーションやコンテンツの開発に必要な複数の機能がまとまった、統合開発環境のことです。ゲームや映像制作のためのツールとして普及してきました。
ゲームエンジンを利用することにより、コンシューマーゲーム機やパソコン、モバイルデバイスなど、開発したいプラットフォームに合わせて個々にゲーム開発環境を用意する必要がありません。これにより、ゲーム開発プロセスをより効率的に進めることが可能です。
また、ゲームエンジンは、プログラミングの知識がなくても高品質な3Dグラフィックスによるコンテンツを比較的簡単に作成することができるため、近年、ゲームや映像などのエンタメコンテンツのみならず、自動車や建築、製造業などの産業分野で活用が進んでいます。
Unity Technologies社の「Unity」とEpic Games社の「Unreal Engine」が高いシェアを誇っている代表的な汎用型のゲームエンジンです。
関連ページ:Silicon Studio「ゲームエンジン活用」
UnityとUnreal Engine
汎用型のゲームエンジンとして多くの開発者に利用されているのが、UnityとUnreal Engineです。
ここでは、UnityとUnreal Engineの特徴をそれぞれご紹介します。
UnityはC#、Unreal EngineはC++
Unityは開発言語にC#を使用します。
C#は直感的で扱いやすい言語で、ゲーム開発者にとって馴染み深いものです。
C#は型安全性が高く、エディタ内でのコードの自動補完やエラーチェックがサポートされています。
一方、Unreal Engineでは、開発言語にC++を使用します。
C++は高度な制御と最適化が必要な場合に選ばれるケースが多いようです。
ビジュアルスクリプトシステム
UnityにはUnityビジュアルスクリプティング(Unity Visual Scripting) 、Unreal Engineにはブループリント(Blueprint)というビジュアルスクリプトシステムがあります。
ビジュアルスクリプトシステムはノードベースのインターフェイスを使用して直感的にゲームのシステムやロジックを構成することができるシステムです。
このビジュアルスクリプトシステムを使用することで、プログラミング経験のない人やゲーム開発初心者でも簡単にゲームロジックやゲームオブジェクトの挙動を設定することができます。
学習のしやすさ
どちらも多くのチュートリアル、コミュニティ、書籍が存在し、学習は容易だといえます。
日本語よりも英語の公式ドキュメントやコミュニティの方が充実しており、高度なトピックにもアクセスできるものの、最近は国内のフォーラムやカンファレンス、コミュニティ活動も活発化しており、大型の勉強会も多数開催されています。
グラフィックスの特徴
Unityはマルチプラットフォーム開発がしやすいURP(Universal Render Pipeline)というレンダラーが採用されています。これにより対応するすべてのデバイスで近い表現が可能となり、マルチプラットフォーム開発がより容易になります。
一方でハイエンドなビジュアルを求める場合向けにHDRP(High Definition Render Pipeline)という物理ベースのハイエンドのレンダラーも準備されています。
これらの特徴から、スマートフォン向けのアプリや2Dゲーム、小規模な3Dゲームや、個人や小規模なチームによるインディーゲームの開発でも多く利用されています。
Unreal Engineは物理ベースレンダリングをベースとした高品質なグラフィックス再現を特徴としています。
そのため、高品質なグラフィックスを必要とする比較的大規模なプロジェクトや映像制作の場面で採用されるケースが多く見受けられます。
Unreal Engineにおいても、VRやモバイルデバイスなどでの表現向けのフォーワードシェーディングを準備することで各プラットフォームに即したレンダリングを実現することが可能です。
どちらも多くのゲーム開発で採用されている、世界中のゲーム開発エンジニアに利用されているゲームエンジンです。
ゲームエンジン活用のメリット
ゲームエンジンを活用するメリットは、以下のとおりです。
- コストと時間の大幅な削減
- モノを取り巻く世界までもリアルに再現
- インタラクティブ性を活かした開発が可能
- 高品質なリアルタイム3Dグラフィックス
それぞれの内容を確認しておきましょう。
コストと時間の大幅な削減
ゲームエンジンを使用することで、開発者は3Dグラフィックスの基本的な機能やシステムをゼロから作成する必要がなくなります。
そのため、開発時間とコストを大幅に削減できるのがメリットです。
ゲームエンジンに備わっているツールとライブラリを使用することで、開発プロセスが効率化され、より迅速にコストを削減しながらPoC(Proof of Concept、概念実証、有効性の検証)したり、現場へ導入して運用を開始したりすることも可能になります。
モノを取り巻く世界までもリアルに再現
ゲームエンジンは、物理エンジンやレンダリングエンジンなど、リアルな世界を再現するための高度なツールを提供します。
開発者はリアルな物理的な挙動や、光の反射や屈折、時間の経過や天候による変化などの視覚的な効果を再現することが可能です。また、樹木や建物などの構造物といった既存のアセット(3Dモデル)を組み合わせて使用することにより、周辺環境を作り出すことができます。
これは、ユーザーに没入感のある体験を提供したり、現実世界におこる物理的な変化を忠実にシミュレーションしたりするために非常に重要な要素だといえます。
インタラクティブ性を活かした開発が可能
ゲームエンジンは、ユーザーの入力に応じて動的に内容を変更する能力を提供します。
開発者はインタラクティブな体験を作成できるようになるのがメリットです。
例えば、ユーザーの選択に基づいてシナリオが進行するコンテンツや物体の外観が変化するコンフィギュレーターなどを作成できます。
高品質なリアルタイム3Dグラフィックス
UnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンは、高品質な3Dグラフィックスをリアルタイムレンダリング(描画)できる能力を持っています。
開発者は美しいビジュアルエフェクトや繊細な3Dモデル、広大なオープンワールド環境などを、計算結果を待つことなく、見栄えを確認しながら制作することが可能です。
リアルタイムレンダリングによる高品質なグラフィックスは、制作にかかる時間や費用を大幅に短縮しながらUXを高めるために重要な要素だといえます。
産業分野でのゲームエンジンの活用例
ゲームエンジンは、実際にはどのように産業分野で活用されているのでしょうか。
ここでは、5つの異なる産業分野でのゲームエンジン活用例をご紹介します。
製造業界の事例:学習・シミュレーション環境
農業機械の開発から、農作物の生産、加工、消費などに至るまで総合的にサポートするクボタでは、製品検査向け機械学習用に不良種画像(3D)と背景画像(2D)を合成し、学習用CG画像を生成するソフトウェアをゲームエンジンで開発しています。生成されたCG画像は正しい不良種として信頼できることが確認されているそうです。
参照情報:シリコンスタジオ「製品検査向け機械学習用CG画像合成ツール」
また、自動車・航空機などを製造するSUBARUでは、プレス型データの配置からシミュレーションの実行、干渉チェック、チルト手動設定、実行結果の出力までを、リアルタイム3DCGによるデジタルツインで実現する、プレスライン搬送シミュレーション環境をゲームエンジンで構築しました。
プレス型に対するパネルの干渉シミュレーションおよびカムの挙動シミュレーションが可能です。
参照情報:シリコンスタジオ「工場プレスライン干渉検証のための3Dデジタルツイン」
建築業界の事例:現場や施設の3Dデジタルツイン
建築業界では、ゲームエンジンを使用して建物の3Dデジタルツインを構築しています。
建物の設計や施工プロセスを、リアルタイムで可視化できるのが特徴です。
現場の問題をシミュレーションで解決したり、プロジェクトの進捗を追跡したりできます。
村本建設では、データ容量が大きくなりがちな点群データを軽量化し、BIMデータと点群データの重畳表示による進捗管理ワークフロー、および、多人数・多拠点での設計・点群データレビュー環境をゲームエンジンで構築しています。
参照情報:シリコンスタジオ「BIM・点群データ重畳表示/多人数・多拠点設計レビュー」
自動車業界の企業事例:自動運転学習用データ、インフォテインメントシステム
自動車メーカーや自動運転技術の開発者は、ゲームエンジンを使用して自動運転の学習用データを生成したり、シミュレーション環境で検証を行ったりしています。
「マツダ」では、自動運転技術開発用の教師データを生成できるツールをUnreal Engineで開発されました。
道路構造や鉄道線路などのインフラ構造物を主体とする「ベースデータ」、建物や樹木、遠景からなる「背景データ」、車両や信号、標識などの「アセットデータ」を合成し、自動運転のための教師データとなる仮想空間の景観を生成しています。
参照情報:シリコンスタジオ「自動運転技術開発用合成データ生成・編集ツール」
また、「メルセデス・ベンツ AG」は2024年以降、メルセデス・ベンツの全車種のインフォテインメントシステムに Unity を採用することが発表されています。計器クラスターやメディア、同乗者向けのディスプレイなど、デジタルコックピット全体の UI/UX を開発する予定です。
HMI のデザインチームは、視覚的に魅力的かつ高度にインタラクティブなコンセプトやデザインを、組み込みターゲットと同じように表示・動作することを確かめながら制作することができます。
参照情報:Unity Technologies「「スクリーンは新しいホースパワー」:大手高級自動車ブランド、Unity でイノベーションを起こす」
映像業界の事例:砂漠の制作を効率化
2024年3月に公開されたDenis Villeneuve 監督の SF 超大作「 Dune: Part Two」 では、ドローンで撮影したフォトグラメトリ データを Unreal Engine に入力し、過酷な砂漠の原始的環境のバーチャルシーンを仮想のロケ地として作成しました。
それにより、撮影プロセスの迅速化を実現しています。
参照情報:Epic Games「Unreal Engine が Dune: Part Two の砂漠の制作を効率化」
医療・薬品業界の事例:顕微鏡以上の精度の医学アニメーション
先駆的な医学アニメーションを 30 年ほど制作している Random42では、Unreal Engine によって顕微鏡以上の精度の医学アニメーションを実現しています。
2020 年に公開されたCOVID-19 の感染とワクチンの開発についてのアニメーションは公開以来 200 万回ほど視聴され、世界中のさまざまなニュース番組やドキュメンタリーで取り上げられてきました。
Random42ではUnreal Engine に移行したことでイテレーションに多くの時間をかけられるようになり、すべてのフレームをできるだけ科学的に正確なものにする必要がある場面では特に大きなメリットとなっているそうです。
参照情報:Epic Games「Random42 のすばらしい医学アニメーションが顕微鏡以上の精度を実現」
ゲームエンジンの活用事例については、以下の記事も併せてご参照ください。
関連ページ:Silicon Studio「ニュースリリース/シリコンスタジオ、「ものづくりワールド(東京)設計・製造ソリューション展」に出展」
シリコンスタジオは産業分野におけるゲームエンジン活用を支援可能
シリコンスタジオでは、ゲーム開発に関することはもちろんのこと、産業分野におけるゲームエンジン活用について、コンサルティングから企画・開発、運用まで、ワンストップで対応が可能です。
関連ページ:Silicon Studio「ゲームエンジン活用」
最適なゲームエンジンを活用しビジネスをドライブしよう
近年、産業分野でのゲームエンジンの活用が進んでいます。
ゲームエンジンは、ゲーム開発環境を提供するソフトウェアで、3Dグラフィックス、音響、入力処理など多岐にわたる要素が統合されていることが特徴です。
UnityとUnreal Engineが代表的で、ゲーム開発のほかにも製造業、自動車業界、建築業界、映像制作、航空業界、医薬品研究開発などで活用されています。
高品質なグラフィックスを実現し、コストと時間の大幅な削減、リアルなシミュレーション、インタラクティブな開発が可能となるのがメリットです。
シリコンスタジオでは、産業分野でのゲームエンジン活用による課題解決を数多く手掛けています。
ゲームエンジン活用による課題解決を検討したい方は、お気軽にご相談ください。
2024年9月24日 一部改訂
■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
DXコラムは、デジタルツインやメタバース、AIをはじめ産業界においてトレンドとなっているDX関連を中心としたさまざまなテーマを取り上げることにより、デジタル技術で業務の効率化を図ろうとする方々にとって役立つ学びや気付き、ノウハウなどを提供するキュレーション(情報まとめ)サイトです。