自動車・モビリティ業界
2024.07.17
ドライビングシミュレーターの用途と種類。課題についても確認しよう
ドライビングシミュレーターは、さまざまな運転条件でクルマとドライバーの挙動を解析するために用いられる装置です。
近年における自動運転の技術革新にも、ドライビングシミュレーターの活用によって得られた知見が活かされています。
本記事では、ドライビングシミュレーターの使われる用途と種類、実際に活用するうえでの課題についてご紹介します。
ドライビングシミュレーターの用途
そもそもドライビングシミュレーターは、どのような用途で活用されているのでしょうか。
ここでは、ドライビングシミュレーターを利用する主な用途をご紹介します。
トレーニング
ドライビングシミュレーターは、運転技能の診断や訓練に活用されます。
ドライバーのスキルや反応時間、運転操作の改善点を評価し、運転技術向上のサポートに用いられることが一般的です。
試験と研究
自動車メーカーや研究機関は、新しい車両やADAS(先進運転支援システム)に代表される運転支援技術の開発にドライビングシミュレーターを活用しています。
特殊な運転条件や危険な状況を再現し、クルマの挙動や安定性を評価するためです。
以下で、具体的な内容をご紹介します。
製品・技術の運転者視点による検証
ドライビングシミュレーターは、ドライバーの視点から製品や技術を検証するためにも利用されます。
運転席のレイアウトや表示系の最適化、人間工学的な試験を行い、視認性や快適性、使いやすさを評価することが目的です。
運転時におけるドライバー特性の解析
シミュレーターは、運転中のドライバーの特性を解析する用途にも役立ちます。
ストレスや疲労、注意力の変化などを観察し、運転状態の改善策を提案することが可能です。
自動運転開発のための学習と検証
自動運転技術の開発においても、ドライビングシミュレーターは重要です。
自動運転アルゴリズムの学習や検証、さまざまなシナリオでの挙動確認に利用されます。
出典:北九州国道事務所 交通対策課「ドライビングシミュレータを用いた事故対策効果の事前確認」
出典:日本安全運転医療学会誌「ドライビングシミュレーターによる健常者の運転技能と視線特性との関係性」
ドライビングシミュレーターの種類
ドライビングシミュレーターは、大まかに以下の2つのタイプに分類されます。
- コンパクトな簡易シミュレーター
- 本格的な高度シミュレーター
以下で、それぞれの特徴や用途を解説します。
コンパクトな簡易シミュレーター
主にドライバーの基本的な操作感覚や視野模擬を再現するのが、コンパクトな簡易シミュレーターです。
具体的には視野シミュレーターや音響シミュレーター、操縦フィードバックシミュレーター、運動感覚シミュレーター、および制御ユニットから構成されています。
例えば、運転席の操作感覚を評価したり、初心者向けのトレーニングに使用されたりすることが一般的です。
本格的な高度シミュレーター
さまざまな運転条件や危険な条件でのクルマとドライバーの挙動を解析することに用いられるのが、本格的な高度シミュレーターです。
荒天や悪路など多岐にわたる運転条件の再現や、ドライバーの状態解析が容易であり、多くの自動車メーカーが活用しています。
自動車の運転性能の解析や運転席レイアウトの最適化、研究開発などに使用されることが多いです。
ドライビングシミュレーターの課題
ドライビングシミュレーターにはいくつかの課題もあるため、利用時には注意が必要です。
ここでは、ドライビングシミュレーターの主な課題をご紹介します。
視覚的現実感の低さ
ドライビングシミュレーターは、仮想的な環境を再現するために高いリアルさを提供することが求められています。
現状、多くのシミュレーターは高解像度のグラフィックスやリアルな照明効果を備えていますが、現実世界と比べると視覚的現実感が低いと感じられることもあるため、さらなるビジュアル品質の向上が求められている段階です。
例えば、物理的な環境や天候の変化を正確に再現する技術の導入が考えられます。
リアルな視覚体験を提供することで、ユーザーの没入感を高め、より正確な運転挙動の解析が可能となるでしょう。
運用の難しさ
高度なドライビングシミュレーターは、複雑な設定や機能を持つため、その運用が容易ではありません。
特に、システムの初期設定や定期的なメンテナンス、ソフトウェアのアップデートなど、専門知識が要求されることが多いです。
そのため、運用の手間やコストがかかり、特定の部門や担当者に依存することになります。
例えば、デザイン部門でも手軽に運用できる走行シミュレーターが実現すれば、開発の初期段階で環境の変化による影響を検証したり、精度の高いプロダクトイメージを共有したりできるため、後工程の品質や開発効率の向上も期待できるでしょう。
日本国内のシーン対応
現状、海外製のドライビングシミュレーターが多く、日本国内の道路シーンや交通ルールに完全に対応していない場合があります。
日本特有の道路標識、交通ルール、都市部の複雑な道路構造などを正確に再現することが難しいため、国内のシミュレーションが必要な場合に実用性が低くなるのが課題です。
この課題を解決するためには、日本向けのカスタマイズや追加開発が求められます。
例えば、国内の都市部や郊外の道路シーンを詳細にモデリングし、交通ルールや標識を適切に反映させることで、よりリアルな運転環境を提供することが可能です。
3D酔い
一部のドライバーは、ドライビングシミュレーターの使用中に3D酔いを感じることがあります。
この現象は、視覚情報と身体の動きの不一致が原因とされています。
特に、長時間の使用や急な動きが多いシナリオでは、酔いやすくなる傾向があるようです。
この問題に対しては、シミュレーターの設計やシナリオ設定の改善が欠かせません。
例えば、よりスムーズな画面遷移や視点の変更、酔いにくいインターフェースの開発が求められます。
具体的には、高いフレームレートとリフレッシュレートを確保することにより、滑らかな映像表示を実現することが重要です。
また、ドライバーの動きを予測し、それに合わせた映像変化を提供することで、酔いを軽減します。
最適なテクスチャの配置とUIによる、目の疲れや焦点の合わせやすさに配慮したデザインも必要です。
さらに、酔いやすいドライバーのためのカスタマイズ可能な設定や、休憩を促す機能の導入も効果的でしょう。
シリコンスタジオでは「ドライビングシミュレーター向けソリューション」の提供が可能
シリコンスタジオは、既存のドライビングシミュレーターの課題解決に必要なソリューションを提供しています。
国内の道路で使用されている道路標識や路面標識・区画線など、高品質なアセットパーツを保有しており、ゆがみやかすれなどの経年劣化も再現可能です。
ゲームエンジンを活用することで、既存シミュレーターが苦手とする時間や季節、日照、気象条件による変化をリアルに再現しながら、手軽に運用できるシミュレーターを構築することもできます。
また、SCANeR studioやCARLAなど、既存のドライビングシミュレーターの資産を活用したビジュアル品質の向上や各種機能の追加にも対応しています。
関連ページ:Silicon Studio「ドライビングシミュレーター向けソリューション」
ドライビングシミュレーターを有効活用するためには課題解決が不可欠
ドライビングシミュレーターは、さまざまな運転条件で車両とドライバーの挙動を解析するための装置であり、運転技術の訓練や新しい運転支援技術の開発、運転席のレイアウトや表示系の最適化、自動運転アルゴリズムの検証などに利用されます。
簡易タイプと高度なタイプに分類され、それぞれ異なる用途に応じた機能を提供するため、用途に応じて選択することが大切です。
ただし、視覚的現実感の低さ、運用の難しさ、日本国内のシーン対応、3D酔いなどの課題が存在し、これらの課題を解決することでドライビングシミュレーターの有効活用が期待されます。
シリコンスタジオでは、「ドライビングシミュレーター」を活用する上での課題を解決するソリューション・技術を数多く提供しております。
ドライビングシミュレーターの課題に直面している事業者の方は、お気軽にご相談ください。
出典:北九州国道事務所 「ドライビングシミュレータを用いた事故対策効果の事前確認」
■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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