コモングラウンド・リビングラボ運営委員会
空間情報の実験場として機能する
コモングラウンド・リビングラボ、
シリコンスタジオが
デジタル空間のビジュアライゼーションを担当
コモングラウンド・リビングラボ運営委員会
株式会社 竹中工務店
情報エンジニアリング本部 情報エンジニアリング1 グループ
【インタビュー 】チーフエンジニア 粕谷 貴司 氏
導入企業
事業沿革: 大阪・関西万博で目指す“Society5.0”に貢献する次世代都市空間情報プラットフォーム「コモングラウンド」を実現する世界初の共同実験場。さまざまな業種の企業・組織が運営委員会を設立し、シェアオフィスと共同実験場からなる同ラボを運営されています。フィジカル空間とデジタル空間でリアルタイムかつ双方向に情報をやり取りできるデジタルツイン環境を構築し、多種多様な実験が行われています。
- 所在地
- 〒530-8566 大阪府大阪市北区天満橋3-3-5 中西金属工業株式会社 本社内
概要
2025年の大阪・関西万博を見据えた「人とロボットが共に暮らす未来社会の実験場」としてオープンしたコモングラウンド・リビングラボ。フィジカル空間と同等のデジタル空間を再現するために、3Dデータに細かい調整を加えるデジタル空間のビジュアライゼーションを担当したのが、同ラボにゴールドメンバーとして参画するシリコンスタジオ。シリコンスタジオはその後もデジタル空間の中核に採用されたゲームエンジンで扱えるデータに変換するためのDCC(Digital Content Creation)ツールの開発に携わるなど、同ラボが目指すプラットフォームの構築に向けて積極的に関与し続けています。
課題
- BIMデータの属性情報だけでは“違和感のない仮想空間”をつくることが難しい
- 細かい調整を行うためには専門家が手作業で対応する必要がある
解決策
- コンピュータグラフィックスの実績と知見を持つシリコンスタジオが参画
- 3Dサーフェスメッシュとツール開発を担当し短期間のうちに完遂
効果
- デジタル空間の情報を使いフィジカル空間の実証実験を効率化
- メンバーの協奏から得られた新たなアイデアや知見
コモングラウンドの社会実装を目指す共同実験場
コモングラウンド・リビングラボは、東京大学生産技術研究所客員教授・建築家の豊田啓介氏が提唱する「コモングラウンド」の社会実装を促すためにつくられた世界初の共同実験場です。コモングラウンドとは現実の都市や建築空間を3Dデータ化してデジタル空間に再現し、フィジカル空間とデジタル空間をシームレスにつなぐ空間情報プラットフォームを表しています。この空間情報プラットフォームを用いて、2025年の大阪・関西万博で目指す“Society5.0”に向けた汎用的な未来都市インフラを構築しようと異業種の企業・組織が結集。相互にデータや実験結果を提供し合いながら実証実験を進める場として大阪・天満につくられたのが、コモングラウンド・リビングラボです。
粕谷氏「コモングラウンド・リビングラボはシェアオフィスと共同実験場から構成されており、カメラやセンサーが設置された実験場では、フィジカル空間とそれを再現したデジタル空間との間でリアルタイムかつ双方向に情報をやり取りするさまざまなサービスやアプリケーション、製品の実証実験が行われています」
粕谷氏によると、ラボではセンサーを持たないモビリティーの自律走行、現実空間や仮想空間にいる人やロボット、アバター同士の自然なコミュニケーションといった実験が可能となっており、大阪・関西万博やその後のスマートシティへ展開していくための第一ステップと捉えられています。粕谷氏は、コモングラウンド・リビングラボの特徴を次のように語ります。
粕谷氏「コモングラウンド・リビングラボが特徴的なのは、現実空間の3DデータとしてBIM(Building Information Modeling)データを用いて仮想空間がつくられている点です。BIMデータには設計図面(3D CAD)情報だけでなく、材質や寸法といった属性情報も付加されているため、より再現性の高い仮想空間を構築することが可能です」
ただ、一方で、BIMデータには課題もあったようです。その課題解決に挑んだのが、コモングラウンド・リビングラボのゴールドメンバーとして参画する当社シリコンスタジオでした。
神鳥「BIMデータの属性情報には色合いや質感といったテクスチャ、光源の角度や明るさによる見え方の変化といった情報が含まれていないため、違和感のない仮想空間をつくるには細かい調整を行わなければなりません。そこでコンピューターグラフィックス(CG)に関する豊富な実績と知見を有するシリコンスタジオが、コモングラウンド・リビングラボの仮想空間における3Dサーフェスメッシュを担当することになりました」
【参考】
第4回:バーチャルとリアルを繋ぐ未来の世界に必要なソフトウェアとは
https://note.com/cgll_osaka/n/nc6d54b536934
コモングラウンド・リビングラボ UE4移植
https://blog.siliconstudio.co.jp/2021/02/383/
BIMデータの活用に向けたプロジェクトが始動
こうして現実空間の実験場施設と仮想空間のデジタルツイン環境が用意されたコモングラウンド・リビングラボは2020年12月にセミオープン、2021年7月にグランドオープンを迎えました。そんなコモングラウンド・リビングラボにはもう一つ大きな特徴があります。それはデジタルツインを再現するプラットフォームにゲームエンジンを採用していることです。
複数のエージェントが個別に動作することを想定したゲームエンジンは、拡張性と柔軟性に優れており、時間の経過に伴ってリアルタイムに空間情報を書き換えるコモングラウンド・リビングラボには最適です。コモングラウンドの提唱者でありコモングラウンド・リビングラボのエバンジェリストを務める豊田氏も、空間の記述を汎用化する中核技術はゲームエンジンだと考えていると言います。ただ、BIMデータをそのままゲームエンジン上で扱うことはできません。そこで当社が取り組んだのが、ゲームエンジンで扱えるデータへ変換するDCC(Digital Content Creation)ツールを使ったパイプラインの開発プロジェクトです。
福本「コモングラウンド・リビングラボではデジタル空間の情報をリアルタイムに書き換えるために、3DCGのデファクトスタンダードであるUSDフォーマットを採用しています。しかしBIMデータをUSDフォーマットに出力しようとすると、マテリアル情報などが抜け落ちることがあります。これをその都度、手作業で調整することは困難なため、3DCGモデリングに必要な要素を修正・補完するDCCツールが必要です。当社ではこのDCCツールを使ったパイプラインの開発に取り組むとともに、BIMデータからUSDフォーマットを介してゲームエンジンで活用するというデータ変換ワークフロー検証プロジェクトを立ち上げました」
参画各社と協力しながら短期間のうちに完成
このように当社ではコモングラウンド・リビングラボのセミオープンに向けた3Dサーフェスメッシュを担当し、BIMデータをゲームエンジンで活用するためのツール開発とワークフロー検証のプロジェクトを実行しましたが、いずれも短期間のうちに完了させています。
福本「3Dサーフェスメッシュは、セミオープンに間に合わせるため10日程度で仕上げました。ツール開発とワークフロー検証のプロジェクトは2021年秋と2022年春の2回に分けて進めましたが、単にデータを変換するのではなく、プラットフォームとしてデータを整備していくことに重点を置きました」
1回目のプロジェクトでは米Epic Gamesの「Unreal Engine」、2回目のプロジェクトでは米NVIDIAの「Omniverse」を主なターゲットにして作業が進められました。
神鳥「もともと3DCG用、ゲーム用ではないBIMデータにマテリアルの質感を付加していくことは、一筋縄ではいきません。そこで竹中工務店の粕谷さんと協力して話し合いながらパターンやコンバーターを作成していきました。当初はBIMデータもゲームエンジンで使うデータも同じ3Dデータなので相性は良いはずだと高を括っていたところがありましたが、実際にはすり合わせが非常に難しく、完成させるまでにシリコンスタジオのCGアーティストが400カ所以上も手作業で修正していきました」
実証実験の効率化という高い評価
プロジェクトを完遂した当社に対し、コモングラウンド・リビングラボ運営委員会からは高い評価をいただいています。
粕谷氏「シリコンスタジオの成果物により、例えばデジタル空間の情報を使ってフィジカル空間のロボットを動かす実証実験が効率化されるという効果を得ました。また運営委員会メンバー各社・各組織には3DCGやゲームに関する専門知識がないため、シリコンスタジオの取り組みや提案から斬新なアイデアや発見が得られました。運営委員会からの細かい要望にも真摯に向き合い、時間のかかる作業にもしっかり取り組んで仕上げていただいたことを非常に高く評価しています」
コモングラウンド・リビングラボのゴールドメンバーとして活動する当社では今後、データ変換を自動化するためのツール開発に取り組む計画です。
神鳥「コモングラウンド・リビングラボの最大の利点は、参画する企業・組織が協力しながら一緒に活動できるところです。各社が話し合いを重ねることで一つのプロジェクトから新たなプロジェクトが生まれるなど、これからも可能性がどんどん広がっていくことを期待しています」
大阪・関西万博を皮切りに、将来のスマートシティでの活用も視野に入れたコモングラウンド・リビングラボは、デジタルツインの実験場として今後も社会に大きく貢献していくでしょう。
※記事の内容は2023年2月時点の取材によるものです