- 農林水産
2026.04.13
海洋デジタルツインと3Dシミュレーション最前線 -レアアース開発と海域可視化の最新技術-
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脱炭素・資源安全保障を背景に、海底レアアース泥やメタンハイドレートなどの海洋資源開発が注目されています。しかし、水深数千メートルに及ぶ海は直接観測が難しい「見えない空間」であることが大きな課題です。
こうした課題を解決するのが、海を三次元空間として再現する「海洋デジタルツイン」と3Dシミュレーションです。観測データを統合し、資源分布や環境変化を可視化することで、開発の影響を事前に検証することができます。
本記事では、海洋資源開発を中心に、海域可視化を支える3Dシミュレーション技術(ゲームエンジン活用を含む)の最新動向と応用について解説します。
海洋資源開発とデジタル化の潮流
まず、レアアースや海洋エネルギーといった海洋資源の開発がなぜ今注目されているのかを整理し、海という見えにくい空間を扱うために3Dシミュレーションやデジタルツインが不可欠になりつつある理由を解説します。
海洋は最後のフロンティア
海洋は地球表面の約7割を占め、気候変動や生態系に大きな影響を与える未解明の領域です。海中は「暗黒の宇宙」とも呼ばれ、視界の限界、電波やGPSの不通、海流や波の影響も受けるため、広範囲かつ高精度に状況を把握することは容易ではありません。
こうした背景から、従来の潜水士や海洋学者の手法だけでは限界があり、取得したデータを統合して再現するデジタルツインの活用が進んでいます。
レアアースと海洋エネルギーが注目される理由
レアアースは、電気自動車(EV)や風力発電、電子機器などに不可欠な材料で、脱炭素社会とハイテク産業を支える重要資源です。一方で、産出地域が偏在しているため、供給リスクが課題とされています。
また、日本は広大な排他的経済水域(EEZ)を有しており、海洋エネルギーや海底資源のポテンシャルは世界トップクラスと評価されています。エネルギー自給率の向上や産業競争力の強化に寄与するとして期待が高まっている状況です。
なぜ海洋デジタルツインに3Dモデルが不可欠なのか
海洋環境は濁りや波、潮流の影響を受けるため視認が難しく、従来の音響ソナーは広域観測に優れる一方、対象や条件によっては解像度や識別能力に制約があります。
現在、水中ドローン(AUV)による高精度な音響観測が進んでいるところです。さらにAIによる画像鮮明化や水中LiDAR(リモートセンシング技術)を用いた三次元計測技術により、cmオーダーの高解像度データをリアルタイムで取得することが可能になりつつあります。
これらを3Dモデル化することで、専門家以外も海洋状態を理解し、施策のシミュレーションによる事前検証が実現します。
レアアース・海洋エネルギー資源の現在地
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レアアースや海洋エネルギーなどの海洋資源は、脱炭素と資源安全保障の両面から、日本経済の持続可能性を左右する戦略分野として関心が一段と高まっています。
では、具体的にどのような海洋資源が注目されているのでしょうか。ここでは、代表的な海洋鉱物・エネルギー資源と、その戦略的重要性を整理します。
海底レアアース泥の戦略的重要性
南鳥島周辺の深海底には、水深5,000〜6,000m級の堆積物中にレアアースを高濃度で含む「レアアース泥」が分布しています。日本のEEZ内に存在する、数少ない鉱物資源です。トリウム・ウランなど放射性元素や有害金属が少なく、「クリーンな資源」とみなされています。
内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)では、採鉱から製錬まで一貫した技術開発と資源量評価を進めており、対外依存度の高いレアアース供給の地政学的リスク低減に寄与しています。
メタンハイドレートと海底熱水鉱床の可能性
メタンハイドレートは、海底下に存在する天然ガス資源です。経済産業省の開発計画では、国産エネルギー源として砂層型・表層型の技術開発が進められており、2030年度に向けて海洋産出試験や総合検証を行う方針が示されています。
海底熱水鉱床は、海底火山活動に伴って形成される鉱床です。銅・鉛・亜鉛・金などの有用金属を含みます。日本周辺の島弧・背弧域にも分布が確認されており、資源量評価や採鉱システムの海域試験が進行中です。
いずれも将来のエネルギー・金属資源として期待される一方で、開発コストや環境への影響といった課題もあり、慎重な技術検証が求められています。
「採掘前に可視化する」資源開発へ
南鳥島周辺のレアアース泥では、従来一様と想定されていた泥層が、音響探査によって厚さや分布が複雑に変化することが明らかになっています。
このため、高解像度の音響探査データと多数のコア試料を組み合わせ、三次元の地質モデルを構築する取り組みが進められています。さらに地球統計学的手法を用いて資源量を推定し、「どこに・どれだけ存在するか」を定量的に把握するアプローチが一般化しつつあります。
こうした採掘前の可視化は、採掘効率の向上だけでなく、環境影響評価や設備配置の最適化にも直結します。従来の試掘中心の開発から、データ駆動型の採鉱計画へと移行している点が、新しい海洋資源開発のアプローチといえます。
海底資源開発を支える3Dシミュレーション技術
海底資源の開発では、水深数千メートルに及ぶ深海環境の地形や地質構造を正確に把握することが不可欠です。近年は、AUV(水中ドローン)による高解像度の音響観測データや地質サンプル分析を統合し、海底地形や堆積層を三次元的に可視化する3Dシミュレーション技術が活用されています。資源分布の把握や採掘計画の立案、環境影響評価までを支える重要な基盤技術として注目されています。
海底地形・地質の3Dモデリング
国立研究開発法人 海洋研究開発機構「JAMSTEC」とSIP海洋プロジェクトは、AUVに搭載されたサブボトムプロファイラーやサイドスキャンソナーなどにより、海底地形や地層構造を高精度に把握しています。
高解像度音響データとコアサンプル分析を比較・統合することで、レアアース泥を含む堆積層の詳細な空間分布や地質構造を三次元的に把握し、資源量評価の精度向上に役立てることが可能です。
採掘計画と環境影響評価の可視化
南鳥島周辺のレアアース泥開発では、水深数千メートルの海底において、採掘する地点や順序、装置の設置位置の検討が不可欠です。
海底地形や堆積層構造を反映した3Dモデルを用いることで、作業の安全性や効率性を事前に検証できるようになります。また、採掘に伴う堆積物の巻き上がり(ブルーム)や拡散挙動をシミュレーションすることで、周辺生態系への影響を予測し、環境負荷低減策の検討も可能です。
現在は要素技術の実証と並行して、こうしたシミュレーションに基づく計画や環境評価の高度化が進められており、事前可視化のニーズが高まっています。
リアルタイムシミュレーションの重要性
JAMSTECでは、AUVによる自律型観測を活用し、海底面から20mの高度を維持しながら連続的に高解像度データを取得しています。台風による海況変化下でも安定した観測が可能です。
取得されたデータは、作業中の地形・地層情報の更新や機器運用状況のフィードバックに活用され、リアルタイムに近い形でシミュレーションや計画の修正が行えます。
資源開発の安全性・効率性の向上だけでなく、環境負荷軽減にも直結する、現代的な開発手法の核となる技術です。
流体シミュレーションと環境モニタリングの統合
潮流や濁り、水質変化を扱う流体シミュレーションと、実海域の計測データを統合した海洋デジタルツインにより、施策の事前検証や環境負荷評価が可能です。海洋資源利用と環境保全の両立をめざす基盤技術として位置づけられています。
潮流・拡散シミュレーションの基礎
富士通は、海洋を構成する環境の変化や、海洋を活用した施策の効果をシミュレーションで予測できる「海洋デジタルツイン」の開発を進めています。海流や波、濁りなど海洋特有の要因を考慮した高精度な3Dデータを基盤に、生物学・環境学の知見を取り入れたシミュレーションを実施。ブルーカーボンや生物多様性保全施策の事前検証を可能にすることが目的です。
IoTセンサーとリアルタイム連携
富士通の海洋デジタルツインは、AUVに搭載したカメラやLiDARセンサーを使い、濁りや波の影響を受ける環境下でも海中生物や構造物の高精度な3Dデータを取得し、デジタル空間に取り込むことができます。取得したデータはリアルタイムで取得・反映が可能です。センチメートル単位の3Dデータと環境計測結果を組み合わせることで、海洋環境の変化や施策の効果をデジタルツイン上で継続的に把握・更新する仕組みが構想されています。
可視化による意思決定支援
海洋デジタルツインは、取得した3D形状データやシミュレーション結果を統合し、海洋生態系や構造物の状態を高精度に可視化することで、ブルーカーボンや港湾検査、生物多様性保全に関する施策立案をサポートします。例えば、藻場などブルーカーボン生態系の分布やバイオマスを3Dで把握し、CO2吸収量の推定や保全施策の効果の事前検証に利用することで、カーボンニュートラルに向けた科学的根拠のある意思決定を支えることが期待されています。
ゲームエンジンと海洋デジタルツイン
ここからは、ゲームエンジンやAIを活用したリアルタイム3D可視化・予測技術が、海洋資源開発における意思決定やシミュレーションの在り方をどう変えていくのか、その将来像を検証します。
ゲームエンジンを活用する理由
ゲームエンジンが海洋データの可視化に活用されるのは、複雑な海洋環境を関係者全員に直感的かつインタラクティブに共有できる可視化基盤として最適だからです。
例えば、AUVで取得した海底地形や波高・海流データをUnreal Engine上に再現し、対馬周辺の海を3Dデジタルツイン化することで、洋上風力発電や海洋開発プロジェクトの影響を3DCGで分かりやすく説明できるようになります。
また、ゲームエンジンが持つ高いリアルタイム描画性能と没入感のある表現力により、従来の図面や静的な資料では伝えにくかった海底構造や施工プロセスを、シミュレーション映像として体験的に理解できる点も、海を対象に活用される理由です。
デジタルツインが変える資源開発
海洋デジタルツインは、海底構造物や海藻・サンゴ礁などの3D形状と、環境変化シミュレーションを統合することで、海洋資源利用や環境施策の意思決定を支援する技術として位置づけられます。
高精度に再現された海底地形や構造物に加え、AIによる生態系やCO2吸収量の変化を予測できれば、資源開発と環境保全のトレードオフを可視化することが可能です。海洋資源開発におけるリスクや環境負荷を事前に評価し、最適な開発計画を立案することができます。
例えばブルーカーボン施策や洋上風力発電などのプロジェクトでは、デジタルツインで仮想的に施策の効果や影響を検証し、環境負荷の低減や作業効率の向上につながることが期待できるでしょう。
海洋開発を変える3Dデジタルツイン基盤
海洋資源開発や沿岸利用の高度化においては、単なる可視化にとどまらず、環境変化や開発影響を事前に検証できる「シミュレーション基盤」としての3Dデジタルツインが注目を集めています。
海底地形や資源分布、潮流・水質などのデータを三次元空間上に統合し、条件を変えながらシミュレーションすることで、採掘計画や設備配置、環境負荷の影響を事前に評価することが可能になります。また、AUV(自律型無人潜水機)の運用設計や航行アルゴリズムの学習・検証としても活用が進んでいます。
さらに観測データやAI解析と連携することで、デジタルツインはリアルタイムに更新される運用基盤へと進化しています。
こうしたシミュレーション結果を直感的に共有する手段として、ゲームエンジンによる可視化も有効です。
シリコンスタジオでは、ゲームエンジンを活用した3Dデジタルツインによるシミュレーター開発や学習・検証環境の構築を数多く手掛けております。是非、シリコンスタジオにご相談ください。
出典:経済産業省「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画を改定しました」
■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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