- 建築・土木
2026.02.27
老朽化インフラをどう守る?点群・BIM/CIM・IoTを活用したデジタルツインによる予知保全DX
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老朽化が進む橋梁・トンネル・上下水道などの社会インフラでは、従来型の定期点検や事後対応型の維持管理だけでは、劣化リスクの顕在化や維持管理コストの増大に対応しきれない局面を迎えています。
こうした課題への打ち手として注目されているのが、3Dレーザースキャンやフォトグラメトリで取得した現況データをBIM/CIMと統合し、IoTやAI解析と組み合わせてインフラの状態を可視化・予測する「デジタルツイン」です。
本記事では、インフラ維持管理におけるデジタルツインの考え方と技術要素を整理し、国内外の最新事例を交えながら、設計から維持管理までのライフサイクル全体を見据えた予防保全DXをどのように立ち上げ、実務に落とし込んでいけるのかを具体的に解説します。
老朽化インフラが直面する維持管理の課題とインフラDXの重要性
老朽化が進む社会インフラの維持管理では、BIM/CIMや3次元データを活用し、設計・施工・維持管理を通じてライフサイクル全体でデータを活かすDXが不可欠です。
ここでは、老朽化インフラの維持管理において顕在化している課題を整理し、BIM/CIM、点群データ、IoTセンサー、AI活用などのデジタル技術を組み合わせたDXが、なぜライフサイクル全体で重要になるのかを解説します。
インフラ老朽化の現状と課題
日本では高度経済成長期に建設されたインフラが多く、今後さらに老朽化が進むと見込まれています。従来の定期点検や事後対応型の維持管理だけでは、効率的な資産保全や安全性の確保が難しくなりつつあります。
維持管理フェーズでは、点検履歴や修繕計画、センサーデータ、環境データなどが分散して蓄積されるため、全体像を把握しにくい点が課題です。特に橋梁やトンネルのような複雑な構造物では、これらの情報を3次元モデルと関連付けて管理することで、劣化状況を直感的に把握しやすくなります。
さらに、点検・修繕情報を設計・施工段階のデータとつなぐことで、意思決定の精度向上や手戻り削減が期待されます。AIによる過去データや気象データの分析を組み合わせれば、不具合発生時期の予測や事故リスク低減にもつながるでしょう。
予防保全が求められる背景
近年、維持管理の考え方は、単なる事後対応から計画的・予防的な保全へとシフトしています。AIによるインフラ状態予測やデジタルツインの活用は、修正計画の最適化、適切な予算配分、安全性の確保、維持管理コストの削減などに役立ちます。
具体的には、3次元モデル上で劣化箇所を可視化し、修繕履歴を参照しながら修繕候補を評価・比較することで、状態基準に基づく点検・補習の効率化が可能です。これにより、従来型の一律的な定期点検から、インフラの状態に応じた計画的な保全へのシフトが進みつつあります。
維持管理DXの社会的意義と政策動向
国土交通省はBIM/CIMをインフラDXのコア技術と位置付け、生産性向上、人手不足解消のための重要施策としています。BIM/CIMは設計・施工・維持管理を通じたデータ連携を基盤として、関係者間の情報共有と効率化を促進します。
また、国交省はBIM/CIMを公共工事に原則適用する方針を進め、適用拡大・制度整備を図っています(2023年度より原則適用開始)。加えて、加点制度や契約方式の見直し、ソフトウェア導入・人材育成支援など、ライフサイクル全体のDXを推進するインセンティブが用意されている点も特徴です。
近年の政策としては、i-Construction(ICT施工中心の効率化施策)からi-Construction 2.0へと進化し、施工現場のオートメーション化やデータ連携の自動化を含むDXが中心テーマとなっています。これは2040年度までに現場の生産性を1.5倍に高め、省人化を進めることを目標としています。
これらの取り組みを通じて、デジタル技術を活用した維持管理は、社会全体でインフラの安全・安心・効率的な運用を実現する鍵となっています。
デジタルツインとは何か?インフラ維持管理で注目される理由
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デジタルツインとは、現実世界のインフラや環境から取得したデータを基に、仮想空間上に「双子(ツイン)」となるデジタルモデルを構築し、現状把握やシミュレーションに活用する概念・技術です。
ここでは、デジタルツインの基本的な考え方と技術的な位置づけを整理し、なぜ老朽化インフラの維持管理で注目されているのかを解説します。
デジタルツインとは –基本概念とBIM/CIMとの関係–
デジタルツインは、現実世界の物体・構造物・環境から得られるデータを用いて、物理的なシステムや状態、プロセスをデジタル空間上に再現する仕組みです。
BIM/CIMは、3Dモデルに形状・材料・施工条件・維持管理情報などの属性情報を付与し、建築・施工・維持管理までの情報を一元管理するための基盤的な仕組みです。
このBIM/CIMモデルに対し、センサーやIoT機器、点群計測などから得られる時系列・動的データを連携・反映させた状態を、インフラ分野では一般的にデジタルツインと位置づけられます。
デジタルツインの詳細は、以下の記事をご参照ください。
関連コラム「デジタルツインとは?使われる技術と活用事例を解説」
リアルタイム連携と高頻度更新
デジタルツインは、現実世界の変化をリアルタイムに仮想空間へ反映し、高精度な現状把握や将来予測のシミュレーションを可能にすることが理想像として語られる技術です。
ただし、2025年時点では、インフラ分野で完全なリアルタイム同期が常時実現しているケースは限定的と言えます。
実際の運用では、以下のような形で、高頻度更新型のデジタルツインとして現実との整合性を保っているケースが主流です。
- センサーによる常時計測(変位、振動、水位など)
- 定期的な点検・巡回時の更新
- ドローンやレーザースキャンによる高頻度な3D計測
- 人による確認・補正を前提としたモデル更新
センサーとIoTがもたらす情報価値と維持管理の効果
インフラ分野におけるデジタルツインでは、IoTデバイスや各種センサー、点群データ、AI分析結果など、多様なデータを統合して活用することが前提です。橋梁、トンネル、ダムといった構造物では、変位・振動・ひずみ・水位などを計測するセンサー情報に加え、ドローンやMMSによって取得した点群・画像データ、過去の点検結果や修繕履歴、さらにはAIによる劣化や異常の兆候の分析結果を組み合わせて活用します。
これらの情報を3次元モデルと結びつけることで、構造物の状態を空間的かつ時系列的に把握することが可能です。劣化の兆候や異常を早期に把握できるようになるだけでなく、災害発生時には被害状況を迅速に可視化し、適切な対応判断を支援することができます。さらに、老朽化対策や予防的な維持管理(予知保全)の実現にもつながります。
建築DXにおけるBIMのメリットについては、以下の記事をご参照ください。
関連コラム「建設DXにおけるBIM活用のメリット。CADとの違いや代表的なツールを紹介」
点群・フォトグラメトリ・BIM/CIMによるインフラ3Dデータ基盤
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インフラ分野における3Dデータ基盤では、点群・フォトグラメトリ・BIM/CIMといった異なる特性を持つ3次元データを適切に組み合わせることが重要です。
形状の正確性、見た目のリアリティ、属性情報の管理といった要件は用途によって異なるため、それぞれの技術の強みを活かしながら、高精度かつ軽量で共有・活用しやすい3次元モデルとして統合・運用することが求められます。
点群データの取得とインフラ分野での活用
点群データは、レーザースキャナやLiDARを用いて構造物や地形の外観・立体構造を計測し、高精度な3次元データとして取得する点が特徴です。橋梁、トンネル、プラント、広域土木や構造物などでは、現状把握や出来形管理、変状確認の基礎データとして広く利用されています。
一方で、点群データはデータ量が非常に大きいため、そのままでは閲覧や活用が難しい場合が多々あります。そのため、実務では点群からメッシュ生成やポリゴンリダクションなどの処理を行い、形状精度を維持しつつデータを軽量化した上で活用されるケースが一般的です。
近年では、こうした最適化された3次元データをゲームエンジンなどの3Dプラットフォームに取り込み、リアルタイムに可視化・操作できる環境で維持管理や検討に活用される事例が増えています。
フォトグラメトリの特長と応用領域
フォトグラメトリは、複数方向から撮影したデジタル写真を解析し、3Dモデルやテクスチャを生成する写真測量技術です。専用の3Dレーザースキャナーより低コストで、ドローンなどを活用すれば広範囲のデータ取得も可能となります。
また、写真由来のデータのため、色味や細部の表現に優れ、視覚的にリアルな3Dモデルを生成できることから、建築物や文化財などの外観記録、景観検討などの用途で活用されています。
フォトグラメトリの詳細は、以下の記事をご参照ください。
関連コラム「フォトグラメトリとは?3Dモデルを作成できる技術について知ろう」
BIM/CIMとCDEによる3Dデータの統合管理
BIM/CIMは、3次元モデルに寸法・材料・施工条件・点検履歴などの属性情報を紐づけ、設計から施工、維持管理までの情報を一元的に管理するための仕組みです。点群やフォトグラメトリで取得した現況データは、BIM/CIMモデルの作成・更新、現実との差分確認に活用されます。
これらの3Dモデルや関連データをCDE(共通データ環境)上で一元管理することで、発注者・設計者・施工者・管理者といった関係者間の情報共有が容易となり、最新情報に基づく合意形成や迅速な意思決定が可能になります。
3DGS(3D Gaussian Splatting)による可視化技術の進展
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近年注目されている技術として、3DGS(3D Gaussian Splatting)が挙げられます。3DGSは、写真や点群などから得られた情報をガウス分布として表現し、高い描画性能とリアルな見た目を両立できる3次元可視化手法です。
シリコンスタジオでは、フォトグラメトリや点群データを同一対象に適用し、従来の点群描画、メッシュ化、フォトグラメトリ、3DGSといった複数の手法を比較・使い分けする取り組みが進められています。見た目のリアリティを維持しながら、リアルタイム描画に適した軽量データとして可視化するといった最適化を実現することが可能です。
なお、ソリューションの詳細は以下でご確認いただけます。
国内・海外に学ぶインフラデジタルツインの導入事例
近年、国内外ではBIM/CIMと点群データ、センサー情報を組み合わせたデジタルツインが、施工管理にとどまらず、維持管理やモニタリング分野においても実務的に活用されつつある状況です。
ここでは、国内外におけるインフラデジタルツインの導入事例をご紹介します。
日本:現場DXプラットフォームによる施工・管理の高度化
飛島建設と応用技術が開発した「サイバー建設現場」は、クラウド上にBIM/CIMモデルで工事現場を再現し、PCやタブレットからCADソフトや高性能PCを用いずに利用できるデジタルツイン型の現場DXプラットフォームです。
カメラによる現場映像、GNSSによる位置情報、各種センサーの計測値、気象・騒音データ、ICT施工データなどを統合し、Autodesk Navisworksで構築した4Dモデルを用いて、工程シミュレーションや浸水予測、建設機械の配置シミュレーション、進捗のリアルタイム監視までを一元的にサポートします。これにより、施工段階における判断の迅速化と、関係者間における情報共有の高度化の実現が期待できます。
海外:橋梁の状態監視とデジタルツインによる予知保全
海外では、インフラ維持管理を目的としたデジタルツインの実装が進んでいます。
ノルウェーのStava橋では、IoTセンサーから取得した構造応答データを処理する橋梁デジタルツインが構築され、ひずみや変位の挙動を継続的に解析しています。
これにより、設計時には想定されていなかった構造欠陥に起因する危険な損傷の進行を早期に検知し、橋梁の状態評価が継続的に行われています。
デジタルツインは、橋の閉鎖判断や一時的補強策の検討、再開時の交通制限条件の設定など、運用面の意思決定にも役立てられています。
将来展望:都市・インフラを統合するデジタルツイン
東京都のデジタルツイン・ロードマップでは、都市全体の3Dモデルに交通・防災・環境などの各種データを重ね合わせることで、災害時の被害想定や避難シミュレーション、都市のレジリエンス向上のための施策検討に活用していく方針が示されています。
地下空間も含めたインフラ情報を統合し、河川氾濫や地震などの複合災害を想定した都市全体のリスク評価、対策立案に応用することで、将来的な都市・インフラ統合デジタルツインの基盤整備を進める取り組みです。
シリコンスタジオの技術が支えるインフラDXとデジタルツイン
シリコンスタジオは、点群・フォトグラメトリ・ゲームエンジン技術を組み合わせることで、高精度な3Dデータを軽量かつリアルに可視化し、インフラ分野におけるデジタルツインの構築を一気通貫で支援しています。
点群・3DGS・フォトグラメトリを組み合わせた統合可視化
シリコンスタジオは、点群やフォトグラメトリといった大容量で重く扱いが難しいデータに対し、ポリゴンリダクションや最適化処理を施し、見た目の品質を維持したまま軽量化する技術を提供しています。これにより、ゲームエンジン上でのリアルタイム表示やインタラクティブな操作が可能となり、デジタルツイン環境として実用的なパフォーマンスを実現します。
また、UV展開や補正、テクスチャ調整により、色味・凹凸・反射・透明度といった質感表現を忠実に再現することで、インフラや工場内部、自然地形などを実物に近いリアリティをもつ3Dアセットとして仮想空間に再現することが可能です。
点群データの活用事例に関する詳細は、以下の記事でご確認いただけます。
関連コラム「点群データとは?取得方法や活用事例を紹介」
ゲームエンジンを活用したデジタルツイン環境構築
Unity、Unreal Engine、Omniverseといったゲームエンジン/3D開発プラットフォームを活用したリアルタイム3Dアプリケーション開発についても、撮影計画やワークフロー設計のコンサルティングからPoC検証、本番導入、保守・運用まで、一気通貫で支援しています。
広域土木の地形再現や、図面の残っていない工場の3D可視化、バリアフリー検証といった用途では、ゲームエンジンに取り込んだ3Dデータ上に機器情報や作業手順、現状と計画の比較などを重ねて可視化することで、シミュレーションや関係者間の意思決定に活用できます。
BIM/CIMデータとの重畳と属性情報の活用
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村本建設株式会社の事例では、軽量化した点群データとBIMデータをUnityおよびUnity Reflectと連携し、BIMモデルと点群データを重畳表示する進捗管理ワークフロー環境を構築、提供しました。
これにより、現場に足を運ばずとも、複数拠点からVRやタブレットを通じて施工状況と設計データの差異を視覚的に確認できる環境を実現しています。多人数・多拠点での設計・施工状況のレビューや情報共有、進捗把握が効率化され、BIM/CIMと現況データをつないだ実践的なデジタルツイン活用が可能となりました。
村本建設株式会社の導入事例に関する詳細は、以下の記事をご参照ください。
関連コラム「点群・3DGS・フォトグラメトリ活用デジタルツイン」
関連コラム「点群データとは?取得方法や活用事例を紹介」
導入実績・他業界での応用から見える可能性
シリコンスタジオでは、工場内部の老朽設備更新検討、バリアフリールートの検証、小型プロダクトの3Dアーカイブなど、建設以外の分野でも点群×ゲームエンジンによるデジタルツイン環境を多数構築してきました。合意形成の円滑化や安全対策、設計・デザイン業務の高度化に活用されています。
点群・フォトグラメトリ技術を単なる3D化ツールにとどめず、「現場とビジネスをつなぐ意思決定プラットフォーム」として位置づけ、Unity、Unreal Engine、Omniverseといったリアルタイム3D基盤の中から、用途や要件に応じて最適な環境を選択した可視化と運用支援を行うことにより、インフラDXにも転用可能な“点群を価値に変える”ソリューションを提供しています。
予防保全時代のインフラ維持管理へ -デジタルツイン導入の第一歩-
老朽化インフラの維持管理では、点群・BIM/CIM・IoTセンサーを組み合わせたデジタルツインにより、「現状の正確な見える化」と「将来劣化の予測」に基づく予防保全型の運用へと舵を切ることが可能になります。各種3Dデータや施工・維持管理情報を統合し、関係者間で共有・シミュレーションできる基盤を整えることは、現場DXと経営判断の両面で大きな効果をもたらすでしょう。
シリコンスタジオでは、点群・BIM/CIM・3DGSを活用したインフラ向けデジタルツイン構築・可視化ソリューションを提供しています。老朽化インフラの維持管理DXをご検討中の方は、ぜひご相談ください。
出典:東京都「デジタルツインの社会実装に向けたロードマップ第3版」
■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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