- 自動車・モビリティ
2025.12.12
Woven Cityに見るスマートシティとデジタルツインの現在地。3Dグラフィックスが支える未来都市
トヨタ自動車(以下、トヨタ)が推進する実証都市「Toyota Woven City(以下、Woven City)」(https://www.woven-city.global/jpn/)は、スマートシティの未来像を体現するプロジェクトとして世界的に注目を集めています。
3Dグラフィックスによる都市の可視化と、デジタルツインによるリアルタイムな都市再現を融合することで、モビリティ(移動手段)・エネルギー・住環境などあらゆる領域の最適化を目指しています。
本記事では、Woven Cityを通じて見えてきた次世代都市の仕組みと、その先に広がるスマートシティの可能性を紹介します。
スマートシティとデジタルツインとは?
スマートシティとは、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)などの新技術を活用し、都市や地域の抱える課題を解決するとともに、新たな価値を継続的に創出するための持続可能な都市や地域のことです。
一方、都市の「デジタルツイン」とは、実在の街をリアルタイムで仮想空間に再現し、試行結果をフィードバックする仕組みを指します。
スマートシティの定義と目的
スマートシティとは、「ICTなどの新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営など)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域」のことを指します。
日本では、政府が「第5期科学技術基本計画」を閣議決定し、官民連携でスマートシティの実現を推進しているところです。スマートシティは、都市や地域の課題を解決し、住民の生活の質を向上させながら、持続可能な社会の実現を目指すことを目的としています。
デジタルツインの仕組みと都市開発での役割
デジタルツインは、スマートシティプラットフォームの一部として構築され、住民・企業・自治体など向けの価値提供の基盤となります。
具体的には、実在の街をリアルタイムで仮想空間に再現し、試行結果をフィードバックすることで、都市開発や運営の効率化や課題解決に貢献します。
この仕組みにより、都市のデータマネジメントや情報流通が可能となり、スマートシティの実現に向けたシミュレーションや検証が可能です。
トヨタ「Woven City」に見るスマートシティの実証モデル
Woven Cityは、自動運転やAI、ロボット、水素エネルギーなどの最先端技術を、実際の暮らしの中で検証・進化させるためにトヨタが建設している「実験都市」です。ヒト・モノ・情報が有機的につながる仕組みを備え、未来のモビリティ社会を実生活から生み出すことを目指しています。
モビリティと暮らしを融合するWoven City構想
トヨタのWoven Cityは、「移動の未来を拓き、よりよい明日を届ける」というPurpose(幸せの量産)を体現する「コネクティッド・シティ」プロジェクトとして構想されました。「モビリティの定義を拡げ、人の可能性が広がる社会をつくる」 というVisionのもと、未来のモビリティ社会を実生活から創り出すことを目指しています。
この「コネクティッド・シティ」構想では、MaaS(Mobility as a Service)、パーソナルモビリティ、スマートホーム、ロボティクスなど、多様な先端技術が街全体に組み込まれ、日常生活と一体となって検証・実装されます。
本プロジェクトの根底には「リアルな生活空間で新サービスを送り届け、ユーザーや住民から直接フィードバックを得ながら技術を磨くことで未来の当たり前を発明する」というMission(目的)があり、技術開発と都市の営みを同時に進化させる拠点として位置づけられているのが特長です。
東富士工場跡地に誕生する“実験都市”の概要
かつてトヨタの東富士工場があった静岡県裾野市の広大な跡地(約70.8万㎡)。その場所にWoven Cityが建設されています。2025年秋のオフィシャルローンチに向けて開発は着実に進み、まずはPhase1として約5万㎡のエリアの建物整備が完了しました。最終的には約2,000人が居住する都市へと成長する計画です。
Woven Cityの特徴は、研究者や企業が実際に住民とともに“暮らしながらテスト”するという点にあります。住民とともに日常の中でプロダクトやサービスを実際に使い、その場で実証・検証し、改善につなげる ー そんなリアルタイムの開発サイクルが街全体で回っていきます。
ここでクラス住民や訪問者(ウィーバーズ)は単なる利用者ではなく、未来のサービス創出に参加するパートナー的存在です。また、企業やスタートアップ、研究機関もこの街に集い、実験都市としてのWoven Cityを共に形づくっていきます。
3つの道と地下インフラが支えるスマート社会
Woven Cityの都市設計は、デンマークの著名な建築家ビャルケ・インゲルス(Bjarke Ingels)氏によって手掛けられています。この都市は「3つの道」と「地下インフラ」による特徴的な構成です。
- 高速移動用の自動運転・ゼロエミッション車専用道
- 歩行者と低速パーソナルモビリティが共存するプロムナード(歩行空間)
- 歩行者専用の公園のような道
これらが“網の目”のように編み込まれた街区は、安全かつ多様なモビリティ体験を創出します。すべての生活インフラ(水素発電・水道・雨水ろ過や物の自動配送ネットワークなど)は地下に設置され、地上空間は住民の暮らしとコミュニティ形成、テクノロジーの実証活用に最大限活用される仕様です。
こうした物理的・情報的な基盤によって、“ヒト・モノ・情報・エネルギーが動く環境”が構築されます。
3Dグラフィックスの可視化による未来の街

3Dグラフィックスは、未来のスマートシティ構築において欠かせない可視化ツールです。都市や建物を立体的な3Dモデルとして表現することで、行政・企業・住民が同じ完成イメージを共有し、計画立案や合意形成をよりスムーズに進められます。
さらに、交通の流れや災害リスクを3D空間でシミュレーションすることにより、現実に近い都市体験を仮想空間で検証することができます。これにより、安全で快適な都市設計を事前に描きだすことが可能です。
3Dモデル化による都市設計・検討プロセスの効率化
都市設計や建築、インフラの計画段階で、街区や建物の詳細な3Dモデルを作成・可視化することで、行政・事業者・住民など多様なステークホルダー間で完成イメージを同じ視点で把握することができるようになります。認識を統一することで、検討や合意形成の効率が大きく向上するでしょう。
街全体や地区単位でのゾーニングの検討や災害リスクの可視化などのシミュレーションも、3D空間上で多角的に実施できるようになりました。
仮想空間による住民体験・UXシミュレーション
スマートシティでは、自動運転車やパーソナルモビリティのルートや挙動を3D空間上で可視化し、交通の流れや安全性の高度なシミュレーション・検証が可能です。人流や車両の流れの変化、衝突リスク、非常時の対応などもデジタルツインで再現できるため、現実の都市施策やサービス改善に活かされています。
Woven Cityでの3Dグラフィックス活用事例
Woven Cityでは、未来都市像や新たな都市サービスの検証に向けて、3Dグラフィックスを活用したデジタルツイン技術が導入されています。現実世界で収集したデータを基に、街やインフラ、モビリティ、サービスの動きなどを仮想空間上に再現し、その上で新たな技術やサービスのテストを行い、必要に応じてリアルな世界にフィードバックする、というサイクルが設計されています。
この仕組みによって、物流サービスなどの開発では、天候や混雑など現実では再現が難しい条件下も含めたシミュレーションが可能となり、安全性・効率性・利便性を事前に検証することが可能です。
Woven Cityプロジェクトは、単なる「スマートシティ構想」ではなく、モビリティや生活インフラ、ロボティクスなど、多様な発明者(Inventors)がリアルな生活環境のなかで実証実験を行う“モビリティのテストコース”です。そのため、デジタルツインは実証実験の効率化、安全性の確保、設計の迅速化において重要な役割を果たすことが期待されています。
シリコンスタジオ「観光DXの未来を切り拓く3D都市モデルを活用したデジタルツイン」
デジタルツインが実現するリアルタイム都市モデル
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現実の都市と完全に連動する仮想空間を構築し、街の動きや人の行動、インフラの稼働状況をリアルタイムで再現・分析できるデジタルツインは、都市運営の最適化や災害対策、省エネ設計などに大きな革新をもたらしています。
ここでは、デジタルツインがスマートシティの中心技術として果たす役割について解説します。
街の動きを再現するデジタルツインの構造
Woven Cityをはじめとするスマートシティでは、デジタルツイン技術が都市作りの要となっています。都市全体のインフラ、モビリティ、住民の行動、環境データなどをリアルタイム、もしくは蓄積データとして取り込み、都市全体の姿をデジタル空間に再現。仮想と現実を往復しながら、より安全で快適な都市運営やサービス開発に役立てています。
街の中で展開されるさまざまなサービスやハードウェアは、まず仮想空間上でシミュレーションされ、「もしも」の条件下で交通の流れやエネルギー消費、住環境の最適化、さらには災害対応など幅広いシーンで検証・予測が可能です。
センサー・データ・AIがつなぐ仮想と現実
インフラや街中、モビリティから収集された多様なデータはセンサーで取得され、AIを活用した解析を経てデジタルツインに集約されます。
またAIによって、プライバシーに配慮しつつ、ヒトやモノの動線や行動パターンが自動解析されるなど、省人化・自動化が進行中です。
一連のデータは、現実空間での異常検知や高度なオペレーションの最適化へと還元されます。
Woven Cityにおけるデジタルツインの活用と実証
運用フェーズのWoven Cityでは、デジタルツインを用いた仮想空間での検証と、実際の街で行う実証実験を循環させることで、サービスや技術の改良を高速に進めています。
仮想空間では、交通や物流、エネルギー利用などの変動を事前にシミュレーションして問題点を抽出。実都市では「Weavers」と呼ばれる住民やテスト参加者が実際にサービスを利用し、日常の体験から得たフィードバックを提供しています。これらは再び仮想空間に反映されて開発・改善サイクルのキーとなっており、このデジタルツインの活用による「仮想と現実の循環」がWoven Cityの実証の特徴です。
3D×デジタルツインが拓くスマートシティの可能性と課題
3Dとデジタルツインの融合は、都市設計から運営・住民体験までを革新し、スマートシティの進化を加速させます。ここでは、その可能性と課題を整理します。
住民体験・都市運営・新サービス創出の可能性
Woven Cityでは、街・建物・モビリティ・サービスをデジタルツイン上で統合的に設計し、実際の都市空間で検証する実験都市として構築されています。リアルと仮想の双方でモビリティ利用や住宅・公共スペースの体験を試すことができる点が特徴で、住民自身が新しいサービスの変化を生活の中で感じながら、より良い暮らしののあり方を探ることができます。
一方、都市運営では、センサーやIoT、AIを活用し、交通流やエネルギー、災害対応などを高度に最適化できる環境が整備されています。さらに街全体がスタートアップや研究機関の実証フィールドとして機能し、モビリティ、物流、住まいなど多様な分野で新サービスの開発・実装が迅速に行える点もWoven Cityの特徴的です。
プライバシー・データガバナンスなどの課題
スマートシティでは多種多様なデータが取得されるため、プライバシー保護やデータの利活用に関するガバナンスの強化が重要課題となります。センサーやAIなどによる高度なデータ収集・分析に対しては、個人情報の適切な管理や明確な同意取得、処理プロセスの透明化が不可欠です。
また、行政・住民・企業・研究機関など異なる主体が連携する環境下で、データ共有のルール整備、責任範囲、アクセス権限の明確化、トレーサビリティを確保する仕組みの設計・構築といった実効的な運用体制が求められます。
技術・人材・コストの壁をどう乗り越えるか
都市規模での3Dモデリングやセンサー網、解析基盤の構築・運用には多額の初期投資と継続的な更新が必要で、運用人材の不足も大きな課題です。対策としては、段階的な導入やオープン標準の活用によるコスト削減、クラウド基盤を用いたスケーラビリティの確保も有効と考えられます。また、3Dデジタルツインモデル自体の精度向上やリアルタイム性、AIアルゴリズムの信頼性、さらにはサイバー攻撃やシステム障害に備えた冗長化や監視体制を組み込むことも重要です。
Woven Cityから広がる他都市・他分野への展開
Woven Cityは、リアルとデジタルが融合した都市運営の先行モデルとして、新しいスマートシティの基準を提示しています。
プロジェクトで培われた3Dグラフィックスやデジタルツインの技術に対する知見は、地方都市のスマート化や防災・災害復興分野における被害予測や復旧シミュレーションの高度化に加え、観光地や産業拠点での実証、既存都市のリノベーションなど、幅広い領域で応用が可能です。
さらに、メタバースやXR、AIなどの先端技術と組み合わせることで、街の状況把握や予測、シミュレーション、住民参加型の意思決定支援、現場型人材育成、遠隔メンテナンス、仮想観光体験など、新たな都市体験を創出できます。
こうした取り組みが多様な地域へ広がることで、持続可能かつレジリエントな都市運営と新しいビジネスの連鎖的な創出が期待されます。
スマートシティは「リアル×デジタル」が融合する時代へ
スマートシティは、現実とデジタルが融合することで都市の姿を根本から変えつつあります。Woven Cityのように、3Dグラフィックスとデジタルツインを活用することで、都市設計や運営、住民体験がより効率的かつ豊かに進化しています。
今後は、こうした技術が防災や観光、産業など多様な分野に広がり、持続可能な都市づくりの基盤となっていくでしょう。
シリコンスタジオでは、都市開発・インフラ・防災・産業領域における3Dシミュレーションやデジタルツイン技術を提供しています。是非、シリコンスタジオまでご相談ください。
■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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