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2025.09.10
VFXとバーチャルプロダクションが拓く映像制作の未来 -ライブ合成・インカメラVFX・ボリュメトリックキャプチャによる技術革新-
映像制作の現場では、LEDウォールやリアルタイムCGを活用した「バーチャルプロダクション」と、視覚効果を担う「VFX」が融合し、クリエイティブと生産性の両面で新たな革新が起きています。これらの技術は、従来のグリーンバック合成やロケ撮影の課題を解消し、映画やCMはもちろん、自動車業界のデザインプレゼンやスポーツ中継、バーチャルイベントなど多様な分野で活用が広がっている状況です。
本記事では、VFXとバーチャルプロダクションの最新動向や導入メリットを、実際の事例を通じて解説します。
VFXとバーチャルプロダクションの基礎知識
そもそもVFXとバーチャルプロダクションとは、どのような技術なのでしょうか。ここでは、それぞれの基礎知識を解説します。
VFXとは何か?映像制作における役割
VFX(Visual Effects)は、映像制作において現実では再現できない、もしくは実際に表現することが困難なシーンや効果をデジタル技術で生み出す手法です。CGや合成技術を用いて、非現実的な背景やキャラクター、爆発や自然現象などを追加することで、映像の迫力やリアリティを高める役割を担っています。
通常は撮影後のポストプロダクションで撮影された実写映像と3DCGや2Dエフェクトなどを組み合わせて構築され、現代の映像制作には不可欠なものです。
バーチャルプロダクションとは?LEDウォールとリアルタイムCGによる映像革命
近年、映像制作の現場では、バーチャルプロダクションが積極的に活用されています。ここでは、従来のグリーンバック撮影を超える制作効率と表現力を誇る新しい手法を中心に、バーチャルプロダクションについて解説します。
バーチャルプロダクションとは
バーチャルプロダクションとは、実際の撮影現場とコンピュータグラフィックス(CG)を合成して映像を制作する手法です。リアルタイムレンダリングとプリレンダリングの2つのアプローチがあります。
リアルタイムレンダリングでは、LEDウォールにCG背景を投影し、その場で映像を確認しながら撮影を進めるインカメラVFXが注目されており、これにより撮影後の合成作業を減らすことができます。従来のグリーンバックでも、リアルタイムレンダリングを使って背景をその場で合成することが可能です。
一方、プリレンダリングは、撮影後に背景を合成する手法です。従来のグリーンバックを使った手法では、撮影後に背景を合成することが一般的で、背景と被写体を別々に処理して最終的に合成します。この手法は、細部まで精緻なビジュアルが必要とされるシーンで非常に有効です。
バーチャルプロダクションは、特にリアルタイムでCG背景やエフェクトを映像に合成できる手法の活用が映画やCM、ドラマなどで進んでおり、より効率的かつ柔軟な制作が可能となっています。
LEDウォールとリアルタイム合成の仕組み
LEDウォールは、巨大なLEDディスプレイを背景として設置し、そこにゲームエンジンなどで生成した3DCG映像をリアルタイムで投影します。カメラにはトラッキングシステムが搭載され、カメラの位置や動きを検知し、それに合わせてCG背景も連動して動くため、自然な遠近感や奥行きの再現が可能です。
LED自体が発光するため、被写体へのライティングも自然で、撮影中に合成後の映像をその場で確認できます。
技術の分類:3つのキーワードで読み解く
VFXとバーチャルプロダクションによる映像表現を語るうえで欠かせない「ライブ合成」「インカメラVFX」「ボリュメトリックキャプチャ」という3つの技術要素について、それぞれの特徴を解説します。
1.ライブ合成(Live Compositing)
リアルタイムCGと被写体の映像を、現場で合成してそのまま確認・記録できる技術です。ニュース番組のバーチャルセットやスポーツ中継でのAR表示などが該当します。
技術的特徴
- クロマキーまたはLEDバックグラウンドを使用
- 撮影中に視覚効果を確認できるが、最終レンダリングはポスト処理が多い
- 比較的軽量なシステムで導入可能
2.インカメラVFX(In-Camera VFX)
LEDウォールに映したCG背景と実写を、そのままカメラ内で合成する撮影手法です。背景が実在するかのように見えるため、演者は空間や雰囲気を直感的に捉えやすくなります。LEDの光が演者に直接当たることで、たとえば雷の光が自然に顔や体に反映されるなど、環境との一体感も生まれます。
カメラに映らない部分も含めて背景をCGで構築することで、光や反射などの間接的な要素にもリアリティを持たせることが可能です。そのため、撮影時点で完成に近い映像が得られ、ポストプロダクションのVFX作業を大幅に削減できます。
技術的特徴
- カメラトラッキングにより背景が視点に追従
- LED光で自然な被写体ライティングが可能
- 演者の演技や演出が直感的に行いやすい
- 撮影後のVFX処理を最小限に抑え、制作スピードと効率を向上
3.ボリュメトリックキャプチャ(Volumetric Capture)
被写体を複数台のカメラで360度から同時撮影し、3Dデータとして再構築する技術です。主に没入型体験(VR/AR)、メタバース、インタラクティブ配信で活用されます。
技術的特徴
- 膨大なカメラとデータ処理が必要
- 実写×3Dスキャンをリアルタイムで再生可能
- 「演者を空間に再現する」ことに特化した表現が可能
※ボリュメトリック技術については、別のコラムでも詳しく解説しています。
【コラム】スポーツ/エンタメ分野で注目のボリュメトリックビデオ。映像体験を革新する空間映像技術とは
実例に見る業界別VFXとバーチャルプロダクションの活用動向
近年、VFXとバーチャルプロダクションの活用はエンタメ業界にとどまらず、放送、スポーツ、自動車といったさまざまな分野へと広がっています。ここでは、各業界での代表的な活用事例を通して、その応用の幅と可能性をご紹介します。
【エンタメ分野①】実写ドラマ『マンダロリアン』:LED VolumeによるインカメラVFXの先駆け
スター・ウォーズの実写ドラマ『マンダロリアン』では、Epic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine」を用いて、LEDウォールにリアルタイムで背景を映し出すバーチャルプロダクション技術が採用されました。
高さ6メートル、直径約23メートルの270°半円形スタジオが建設され、合計1326個のLEDモジュールを使用。俳優は巨大なLED壁と天井に囲まれたセットで演技し、カメラの動きに合わせて背景が即座に変化するため、現実のロケ撮影を必要とせず、自然なライティングや反射もその場で再現することができます。
この手法により、制作現場で即時にシーンの調整やクリエイティブな選択が可能となり、従来のVFXよりも効率的かつ柔軟な映像制作が実現しました。
【エンタメ分野②】tofubeats『自由』MV: スタジオ撮影とライブ合成を統合した音楽映像
tofubeatsの楽曲『自由』のミュージックビデオは、全編がバーチャルプロダクションで制作されました。LEDウォールやゲームエンジンを活用し、リアルタイムに背景やエフェクトを合成しながら撮影を行ったのが特長です。
従来のグリーンバック合成では難しい自然な光や反射、現場での即時修正が可能となり、短期間で高品質な映像表現を実現しています。
【放送・スポーツ中継】BBC『東京オリンピック』: ライブ合成で没入感を高めた中継演出
THE GLITCH IN THE MATRIX pic.twitter.com/Ueut6kzMxb
— Scott Bryan (@scottygb) August 7, 2021
BBCは東京オリンピックの放送で、バーチャルスタジオ技術を活用しました。MOOV社が提供したこのシステムでは、仮想空間上に構築された東京の都市風景や競技会場を背景に、リアルタイムでプレゼンターが登場し、現地にいるかのような臨場感ある映像演出を実現しています。
物理的なスタジオセットを用意することなく、多様なビジュアル表現や即時の情報更新が可能となり、視聴者に新しい体験を提供しました。
【自動車業界①】Volkswagen「ID.4」:LED背景でグローバルシーンを仮想再現
Volkswagenは、電気自動車ID.4のグローバルキャンペーンでバーチャルプロダクションを活用し、従来のロケ撮影に代わり、LEDスクリーンに多様な3DCG背景を投影して撮影を実施しました。世界各地の風景や架空の環境をリアルに再現し、移動や天候に左右されず効率的かつ環境負荷の少ない制作を実現しています。
Unreal Engineを中心としたリアルタイム技術により、現場での即時判断や高品質な映像表現が可能になったことが、この実現の鍵といえるでしょう。
【自動車業界②】トヨタ自動車「カローラ クロス」CM:アート空間での車両撮影
トヨタ自動車の「カローラ クロス」新CMでは、ソニーPCLのバーチャルプロダクション技術とヒビノのLEDディスプレイシステムを採用しました。300度ラウンド設置の大型LEDディスプレイにアート作品の3DCG背景を映し出し、現実の車両と融合した映像をリアルタイムで撮影しました。
従来のグリーンバック合成よりも自然で高精細な映像表現が可能となり、CMの世界観をダイレクトに表現しているのが特長です。
【自動車業界③】日産自動車「デザインプレゼンテーションホール」:遠隔対応型の仮想検証環境
日産自動車は、厚木のグローバルデザインセンターに24K LEDスクリーンとフルカラー天井スクリーンを備えた「デザインプレゼンテーションホール」を新設しました。ゲームエンジンを活用したCG映像と実車を組み合わせ、デザインの最終決定や検討をデジタルで実施しています。
リアルとバーチャルが融合した没入型空間で、世界中のデザイナーが遠隔からも参加でき、デザイン開発の効率と創造性を飛躍的に高めています。
VFX×バーチャルプロダクション導入のメリット
VFXとバーチャルプロダクションの導入は、映像制作の現場に革新をもたらしています。特に、従来の撮影手法では難しかった新しい映像表現や、現実には存在しない空間の再現が可能となりました。一方で、導入には高精度なCG制作技術や専用機材、専門スタッフの確保が求められ、初期投資や技術習得の負担が課題です。これらの点が、現場での導入拡大に向けた検討事項となっています。
コスト削減・制作期間短縮の実際
バーチャルプロダクションを活用すると、ロケ地の選定や移動、現地での長期滞在が不要となり、宿泊費や食費、場所の使用料などのコストが大幅に削減されます。
また、撮影後のCG合成や編集作業がほとんど不要となるため、制作期間も短縮可能です。実際に、従来なら数日かかる撮影を1日で完了させた事例もあり、低予算でも高品質な映像制作が実現しています。
撮影現場の自由度と柔軟性
バーチャルプロダクションはスタジオ内で理想的な背景や天候、時刻を自由に再現できるため、撮影現場の自由度が飛躍的に向上します。天候や時間に左右されず、アクセス困難な場所や撮影禁止エリアもCGで表現できるため、演出の幅が広がります。
また、LEDウォールやインカメラVFXの導入により、現場でリアルタイムに背景やライティングを調整することが可能となり、演者やスタッフの負担も軽減されます。
VFXとバーチャルプロダクションで実現する映像DXの可能性
映像制作の現場では、VFXとバーチャルプロダクションの融合により、リアルタイム合成やLEDウォールを活用した効率的で高品質な制作手法が注目を集めています。多様な分野への導入が進む中、表現力と生産性の向上を同時に実現する新たな選択肢として期待されています。
シリコンスタジオでは、映像制作の高度化や業務効率化を実現するVFX・バーチャルプロダクションをはじめ、Unreal Engineによるリアルタイム3Dグラフィックス技術の活用を幅広くご支援しています。課題やご不明な点がありましたら、お気軽に当社までご相談ください。貴社の課題に最適なソリューションをご提案いたします。

■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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