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2025.06.04
スポーツ/エンタメ分野で注目のボリュメトリックビデオ 。映像体験を革新する空間映像技術とは
ボリュメトリックビデオは、従来の2D映像やCGでは不可能だった「空間×時間×視点の自由」を実現する技術です。自由視点再生やメタバースコンテンツ制作を根本から変革します。
3Dデータの圧縮技術やリアルタイム処理の進化により、スマートフォンやモバイル端末での活用も現実のものとなりつつあります。6G時代のコミュニケーションや没入体験コンテンツ、産業シミュレーションへの応用が急速に拡大しているところです。
ボリュメトリックビデオは単なる映像表現の進化を超え、スポーツやエンターテインメント分野のみならず、デジタルツイン構築の基盤技術として製造業や医療分野でも注目を集めています。
本記事では、ボリュメトリックビデオ技術の仕組みと活用のメリット、3Dデジタルツイン構築への貢献について事例を交えてご紹介します。
ボリュメトリックビデオとは
ボリュメトリックビデオとは、3次元空間と時間軸を同時に記録することで、撮影後に自由な視点から映像を生成することが可能な「自由視点映像」を実現する技術です。被写体を多方向から同時に撮影し、現実世界の時間、空間、人物などを3Dデータとして記録・再現します。
この技術を活用すれば、従来の固定カメラアングルを超えた映像表現を実現することが可能です。ボリュメトリックビデオは単なる映像技術の進化ではなく、3Dデータ活用時代における新たな基盤技術としての革新性があるといえるでしょう。
ボリュメトリックビデオの仕組みと3D映像生成の流れ
ボリュメトリックビデオでは、被写体を360度全方位に配置した数台から数百台近いカメラでさまざまな角度から撮影します。撮影した被写体の映像から深度情報やカメラ間の視差を元に3Dモデル化し、背景データもデータ化して合成することにより、映像内を自由に移動、視点変更することが可能になる仕組みです。
ここでは、ボリュメトリックビデオ映像の撮影方法と使用される3Dデータ形式および処理工程について解説します。
ボリュメトリック映像の撮影方法
ボリュメトリック映像では、被写体を囲むように円状または球状に配置した数十~数百台のカメラで同時撮影します。赤外線カメラや深度カメラが使われることもあります。
そして、ボリュメトリック映像における照明技術は、被写体の形状や質感を正確かつ自然に再現するうえで極めて重要です。多方向から均一な光を照射する均一照明(フラットライティング)によって影を最小限に抑え、3D再構成に必要なデータの取りこぼしを防ぎます。
スタジオ撮影でよく使われるのは、グリーンバック(クロマキー)や単色背景です。バックライトとキーライトを調整し、色抜けや影干渉を抑えながら、被写体と背景を分離しやすくします。
また、ボリュメトリック映像の撮影では、すべてのカメラでフレーム単位の正確な同期が必要です。高速シャッターやタイムコードによってタイミングを一致させます。
使用される3Dデータ形式と処理工程
ボリュメトリック映像の生成には、主に点群データ(ポイントクラウド)とメッシュデータの2つのデータ形式が用いられます。
各点に位置(X,Y,Z)と色(RGB)などの情報を持たせた点群は、表面が連続しておらず拡大時に隙間が生じるため、メッシュ化が必要になることが少なくありません。一方、頂点、エッジ、面からなる3Dモデルの構造データであるメッシュデータは、三角形ポリゴンによる連続面表現で視覚的にリアルな見た目の再現が可能です。
ボリュメトリック映像は、他にもボクセルデータやスプライトボリューム、GLTFやUSDZなど、用途に応じてデータ形式を組み合わせたり変換したりしながら運用されます。
処理工程は以下の3段階で進められます。
- 撮影データ収集:多方向からのカメラ群による高フレームレートの映像や深度情報を取得
- 3D再構成:Nコンピュータビジョン技術やマルチビュー・ステレオ法などを用いて、被写体の形状(ジオメトリ)を再構成
- テクスチャマッピング:撮影されたRGB映像から色情報を抽出し、再構成された3D形状に貼り付け
ボリュメトリックビデオの活用メリットと技術的進化
ボリュメトリックビデオはその特徴を活かし、さまざまなシーンで活用されています。ここでは、ボリュメトリックビデオの活用メリットと技術的進化を解説します。
没入感の向上:視点を自由に変更可能
ボリュメトリックビデオの場合、視聴者は自由に視点を変更して、360度どの角度からでも映像を見ることが可能です。これにより、従来の2D映像では得られなかった圧倒的な没入感を体験できます。例えば、スポーツ中継で選手目線に切り替えたり、ライブパフォーマンスを好きな位置から観賞したりすることが可能です。
ボリュメトリックビデオによる自由視点映像は、まるでその場にいるかのようなリアリティをもたらす一方、実際には見ることができないアングルによる視点映像が、現地体験よりも視覚的に優る体験をもたらすこともあります。エンターテインメントや教育、プロモーションなど多様な分野で新しい映像体験を創出しています。
リアルタイム性:撮影と同時に3Dデータを生成・配信が可能
近年の技術進化により、ボリュメトリックビデオは撮影とほぼ同時に3Dデータを生成し、リアルタイムで配信することが可能になりました。
例えば「VOLUMETRIC VIDEO STUDIO」では、撮影から3Dデータ生成、ユーザーへの配信までの一連の流れをリアルタイムで実現しています。世界中のユーザーが自分のデバイスで、好きな視点からライブコンテンツを楽しめるようになりました。
また、リアルタイム圧縮技術の進化により、スポーツや音楽ライブなどの大規模イベントでも、遅延の少ないインタラクティブな配信が実現しています。
多用途性:多岐にわたる分野で応用可能
ボリュメトリックビデオの応用範囲は非常に広く、エンターテインメント(ライブ配信、スポーツ中継、演劇)、教育(遠隔授業、歴史体験)、ビジネス(バーチャル展示会、製品プロモーション)、医療(手術シミュレーション)、観光(バーチャルツアー)など、多岐にわたるのが特徴です。
例えば、プロ野球中継では選手の動きを3Dデータ化し、試合の名場面のリプレイ映像を実際には見ることができないアングルのダイナミックな自由視点映像で見せるなど、従来にない新しい放送体験が生まれています。
また、XR(VR・AR・MR)コンテンツとの親和性も高く、メタバースやデジタルツインなどの次世代分野でも活用が進んでいます。
効率的なデータ利用:圧縮技術の進化により、高品質な3D映像でも低帯域で配信可能
ボリュメトリックビデオは膨大なデータ量が課題でしたが、近年は国際標準規格「V-DMC」に対応したリアルタイム圧縮技術などが開発され、従来比1,440倍の速度で高品質な3D映像を圧縮・伝送できるようになりました。その結果、スマートフォンや一般的なネットワーク環境でも高精細な3D映像のリアルタイム視聴が可能となり、配信コストや帯域の制約を大幅に緩和しています。
さらにクラウドサーバーとの連携によって、視聴者数に応じたストレージ拡張や効率的なデータ伝送も実現しており、今後さらに多様な用途への展開が期待されています。
ボリュメトリックビデオは「没入感」「リアルタイム性」「多用途性」「効率的なデータ利用」といった観点で大きな進化を遂げており、今後もXRやメタバースなど新たな分野での活用が拡大していくと考えられるでしょう。
ボリュメトリックビデオの活用分野と可能性
ボリュメトリックビデオは、以下の分野で革新的な活用が進んでいます。
- スポーツ中継における多視点映像分析
- エンタメ体験の進化と没入感
- メタバースの実写アバター化
- 教育・医療現場での3D記録活用
ここから、それぞれの内容を解説します。
スポーツ中継における多視点映像分析
ボリュメトリックビデオは、複数カメラで撮影した3Dデータをリアルタイム解析し、選手目線や物理的に不可能な視点(マウンド下からの眺めなど)を生成可能です。映像生成から3秒での出力が特徴で、戦術分析や審判判定支援にも応用できます。
また、視聴者には360度自由視点リプレイを提供し、選手の動作をミリ単位で解析可能です。
エンタメ体験の進化と没入感
ボリュメトリックビデオなら、あとから背景を変更したり、照明を変化させたりすることで、自由な映像制作を実現します。グリーンスクリーンスタジオに設置された100台超のカメラで人物を撮影して3Dモデル化することで、ありえないカメラワークによる演出はもちろん、好きなシチュエーションのシーンに変えることも、あとからライティング効果を加えることも可能です。
メタバースの実写アバター化
ボリュメトリックビデオなら、メタバース空間においてリアルな実写風アバターを生成できます。表情や微細な動きまで再現し、見た目や動きを忠実に反映できるため、デジタルファッションショーや会議などのライブイベントで「本物のような存在感」を演出することが可能です。また、ブロックチェーン技術と組み合わせたファンエンゲージメントツールも開発されています。
教育・医療現場での3D記録活用
可搬型システムにより、学校現場で運動動作の3D解析を実施することも可能です。医療分野では手術シミュレーション用に患者の立体モデルを生成し、医学生教育や術前計画に活用されています。さらに、文化財のデジタルアーカイブ化でも空間全体を忠実に記録することが可能です。
ボリュメトリックビデオの導入・活用事例
ボリュメトリックビデオは、実際にはどのように活用されているのでしょうか。ここでは、ボリュメトリックビデオの導入・活用事例を3つご紹介します。
事例1: スポーツ×3D映像の臨場感強化
スポーツ分野では、ESPNが2022年3月16日にテレビの生中継としては史上初めてNBAのゲームをボリュメトリック映像で放送しました。バスケットボールコートの周りに約100台の4Kカメラを設置して実現したものです。
日本国内ではプロ野球中継や柔道国際大会、競輪レースなどでボリュメトリックビデオ技術が導入されています。
例えばプロ野球中継では、80台以上のカメラで選手の動きを多角的に撮影し、3D空間を再構成しています。視聴者は選手と同じ目線でプレーを楽しめることにくわえ、ピッチャーの背後やキャッチャー目線など、通常では見られないアングルの映像をリプレイで体験できます。
〇DRAMATIC BASEBALL 2025:【ディレクターが選ぶ自由視点映像まとめ】巨人×広島3連戦【ボリュメトリックビデオ】
事例2: 都市開発とAI学習の融合
虎ノ門ヒルズの「TOKYO NODE LAB」では、ボリュメトリックビデオを都市開発とAI学習のための3D映像データ開発拠点として活用しています。最先端のボリュメトリックビデオ技術を用いて都市空間や人々の動きを3Dデータ化し、これをAIの学習用データセットとして商品化しました。
事例3: ファッション業界での没入型表現
ファッション分野では、ブランド「JUN ASHIDA」や「ANAYI」などがボリュメトリックビデオ技術を活用したコレクション映像を制作しています。モデルの動きや衣服の質感、ディテールを360度全方位から自由な視点で鑑賞できるようになりました。
従来の2D画像や動画では伝えきれなかった商品の特徴や雰囲気を、3D空間でよりリアルに体験できるため、オンラインショッピング時のイメージギャップを減らす効果も期待されています。
ボリュメトリックビデオの課題と将来展望
ボリュメトリックビデオは多用に活用できる一方で、課題もあります。ここでは、ボリュメトリックビデオの課題と将来展望について解説します。
課題(ライティングとデータ量)
ボリュメトリックビデオの実用化においては、いくつかの技術的な課題が存在します。
まず、ライティング(照明)の問題です。撮影時の照明環境と、再生・配置する仮想空間の照明環境が異なる場合、3Dモデルが不自然に見えてしまいます。例えば、明るいスタジオで撮影した人物を暗い仮想空間に配置した場合、違和感が生じやすくなってしまうかもしれません。また、鏡面反射や半透明素材など、光の反射特性が複雑な素材に対しては、照明条件によって質感が正しく再現されないことがあります。
こうした課題を解決するため、撮影時の光情報を詳細に記録し、後から仮想空間の照明に合わせて3Dモデルの見た目を調整する「リライティング」技術の研究が進められている状況です。視点と光の変化に対応できる新しいレンダリング手法として、特に質感と照明の変化表現に強みがあるNeRF(Neural Radiance Fields)も注目されています。
もうひとつの大きな課題は、データ量の膨大さです。
ボリュメトリックビデオは、複数カメラによる高解像度・高フレームレートの映像収集、3Dメッシュやボクセル表現、テクスチャ情報のすべてが重なることで、1秒間に数GB規模になることもあります。データ転送や保存、リアルタイム処理の負荷が非常に高く、従来の映像と比べて格段に大きな容量を必要とするため、効率的なデータ圧縮や符号化技術の開発が不可欠です。
現在は、国際標準化されたV-PCC(Video-based Point Cloud Compression)やH.266/VVC(Versatile Video Coding)などのボリュメトリック向けの新しい圧縮技術が登場し、データ量の削減とリアルタイム配信の実現に向けた取り組みが進んでいます。また、ユーザーの視野に入る部分のみを高解像度で表示し、その他は省略または低解像度で処理することで負荷を軽減する選択的データ処理(LOD: Level of Detail)なども採用され始めているところです。
将来展望
今後のボリュメトリックビデオ技術の発展には、さまざまな可能性が広がっています。まず、撮影装置の小型化や可搬化が進むことで、従来は専用スタジオでしか実現できなかった高品質な3D撮影が、より手軽に、さまざまな場所で行えるようになるでしょう。また、撮影コストの低価格化によって、個人や小規模な制作チームでもボリュメトリックビデオを活用できる時代が近づいています。
データ圧縮や符号化技術の進歩も、今後の普及を大きく後押しするでしょう。スマートフォンやモバイル端末でもリアルタイムに3Dデータを扱えるようになれば、6G時代の新しい映像体験や、メタバース、リモートコミュニケーション、シミュレーション分野など、さまざまな産業での活用が期待されます。
さらに、リライティング技術の進歩によって、仮想空間やシミュレーション環境での3Dモデルの自然な見た目が実現し、より没入感の高い体験が可能です。今後、AIや機械学習を活用した自動調整技術も発展し、ボリュメトリックビデオはエンターテインメントだけでなく、教育、医療、スポーツ、産業分野など、多様な分野で標準的なツールとなる可能性が高まっています。
NeRFやGNT(Geometry-aware Neural Textures)など、ディープラーニング技術を活用したデータ効率化も注目分野です。
出典:経済産業省「令和6年度表彰・インタビュー(未来技術紹介)」
革新的な3D映像の体験を切り拓くのがボリュメトリックビデオ
ボリュメトリックビデオは、3D空間と時間軸を同時に記録する革新的映像技術で、自由視点映像や没入体験を実現することが可能です。スポーツ、エンタメ、メタバース、教育・医療分野など幅広く活用され、新しい体験を提供しています。リアルタイム配信やデータ圧縮技術も進化しているところです。
課題としては膨大なデータ量と照明調整が挙げられますが、撮影機材の小型化やリライティング技術、6G通信の進展により、今後さらに普及・発展が期待されています。

■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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