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2025.04.09
デジタルツインが切り開くロボット開発 – ROSとシミュレーターとの連携
ROS(Robot Operating System)は研究・教育や産業用ロボット、自動運転車や宇宙探査、医療など、さまざまな分野で幅広く活用されているオープンソースのプラットフォームです。新しいロボットの開発には莫大なコストがかかるため、実機を開発する前にROSとシミュレーターの連携による検証が重要視されています。
本記事では、ロボット開発において革新的なアプローチをもたらすデジタルツインを活用したROSとシミュレーターとの連携について、実現方法や具体的な事例、今後の展望について解説します。
はじめに
ROS(Robot Operating System)は、ロボットの研究・開発のための共通基盤技術を提供する、ソフトウェアフレームワークです。ロボットを制御するために必要な通信機能やセンサー制御、動作計画などを標準化し、異なるメーカーの製品間での連携を容易に実現できます。オープンソースとして公開されているため、誰でも無料で利用することが可能です。
ROSは分散アーキテクチャを採用し、「ノード」と呼ばれる実行プロセスが互いに情報を授受することでロボットシステムを構築します。C++やPythonなど、複数のプログラミング言語をサポートしている点も特徴です。
ROSとシミュレーターの連携
ROSとシミュレーターとの連携により、実機を使わずに仮想空間上で実際の動作や起こりうる事象の確認、設定したプログラムの検証と最適化が可能となり、開発期間の短縮やコスト削減につながります。実機を開発する前に潜在的な問題を特定し、解決へと導くことで、ロボット開発の成功率を高めることが可能です。
デジタルツインとの連携
デジタルツインによるROSとシミュレーターとの連携は、より精緻な開発検証が可能になります。
現実世界を高精度にコピーした3Dデジタルツインによる仮想空間をROS連携によるシミュレーション環境として活用することで、ロボットの動作やセンサー情報の確認、AIの学習および学習結果の検証などの精度を向上させることが可能です。
ROSとシミュレーターの連携が重要視される背景
なぜロボット開発においてROSとシミュレーターとの連携が重要視され、活用されるようになったのでしょうか。ここでは、その背景を確認しておきましょう。
ロボットの研究・開発における課題
自律型ロボットや自動搬送車、自動運転車などの開発には、いくつかの重要な課題が存在します。
産業用アームロボットを例に挙げると、設置時に占有スペースの形状や体積を考慮してレイアウトを考える必要がありますが、これらの調整作業は非常に複雑で、実環境での試行錯誤は非効率的です。場合によっては危険をともなう可能性もあるでしょう。また、設置後にレイアウト変更や新たなライン設計が求められることもあります。
さらに、動作プログラムの調整や干渉チェックなどにも、多大な時間と労力が必要です。物品の位置や向きを取得するための機能の調整、障害物回避と自己衝突を避けるための移動経路の最適化、そしてロボットハンドの把持力の調整などが必要となります。
シミュレーションの必要性
ROSは豊富なパッケージ群を提供しており、シミュレーター内で仮想的にロボットを操作する環境を整えることが比較的容易です。
このとき、3DデジタルツインによるROS連携シミュレーション環境では、干渉や周辺工程との連動も事前に確認することができます。障害物回避や周辺機器との連携を仮想空間で検証することにより、実機導入時のリスクを大幅に低減できるのがメリットです。
また、3Dデジタルツインによる可視化を行うことで、稼働状況を確認することができます。ロボットだけでなく、周囲の環境も仮想空間内に再現できるため、より現実に近い状況で検証できるようになるでしょう。
ROSとシミュレーターの連携の実現方法
ここからは、ROSとシミュレーターとの連携の実現方法をご紹介します。
ROSは豊富なパッケージ群を提供しており、GazeboというシミュレーターがROSの一部として提供されています。また、Rvizという可視化ツールが付属されているため、これらのツールを活用することで開発効率を高めることが可能です。
主なシミュレーションツール
ROSと連携可能なシミュレーションツールの一例と、その特長は以下のとおりです。
Gazebo
Gazeboはオープンソースの3Dロボットシミュレーターです。ROS/ROS2との連携が充実していて、通路、コンベヤー、ワークなどの環境要素を組み込み、仮想的にロボットを操作することができます。カメラやLiDARなどのセンサーシミュレーションも豊富です。RVizと連携して使用することも可能で、物理エンジンの切り替えも行えます。
WINCAPSIII
WINCAPSIIIは、デンソーウェーブのロボットシミュレーションソフトウェアです。プログラミングからメンテナンスまでをサポートします。3D環境でのロボット動作シミュレーションやデバッグ機能を提供し、実機がない状態でもロボット動作の確認や最適化が可能です。
ROBOGUIDE
ROBOGUIDEは、FANUCのロボットシミュレーションソフトウェアで、オフラインでのプログラミングとシステム設計を効率化します。CADファイルのインポートやVR機能を活用し、リアルな動作確認が可能で、システム立ち上げ時間を大幅に短縮することが可能です。
ゲームエンジンの活用
Unity、Unreal Engineに代表されるゲームエンジンやNVIDIA Omniverseといった3Dデジタルツインの開発を支援するプラットフォームは、高品質な画像によるビジュアライズや、アセットストアなどで提供される3Dモデルの活用、カスタマイズの柔軟性など、さまざまな利点を活かしたROS連携によるシミュレーション環境の構築を実現することが可能です。歩行者シミュレーションなどの複雑な環境要素も再現できるため、より現実に近い仮想空間で、さまざまなデータを取り込んだ実際の稼働条件に近い状況でのロボットシミュレーションが実現できます。
また、高度な物理シミュレーションも可能なため、ロボットの動作や稼働させる環境との相互作用を精密に再現することもできます。カメラやLiDARなどのセンサーデータを高精度に生成し、AIの学習や学習済みアルゴリズムのテスト環境として活用することも可能です。
視覚的に優れた高品質なテスト環境を比較的容易に構築し、ロボット開発の効率と精度の大幅な向上が期待できるのがメリットです。
ROSとシミュレーターの連携の活用例
ROSとシミュレーターとの連携は、どのような活用と効果が考えられるでしょうか。ここでは、ROSとシミュレーターの連携について、ユースケースをご紹介します。
産業用ロボットの開発効率化
シミュレーションツールを活用し、ピック&プレース工程の最適化、物品位置検出機能の調整、障害物回避と経路最適化、ロボットハンドの把持力調整を効率的に行うことが可能です。実環境での導入前に仮想空間で動作確認や調整が可能となり、開発プロセスが大幅に効率化されます。
自律移動ロボットの挙動検証
強化学習手法を用いたナビゲーションアルゴリズムの評価、ROSプラットフォームでのセンサーデータ処理と障害物回避の検証、複数ロボット間の協調動作テストをシミュレーション環境で実施します。実世界での展開前に自律移動ロボットの挙動を効果的に検証し、最適化することが可能です。
スマートシティにおけるロボット活用
シミュレーションツールを用いて、複雑な都市環境でのロボット動作、交通システムとの連携、緊急時対応シナリオをテストできます。スマートシティにおけるロボットの安全性と効率性を事前に検証して最適化することができ、実際の導入をスムーズに進められるでしょう。
今後の展望:AIとの融合
ここからは、ROSとシミュレーターの連携におけるAIとの融合について、今後の展望をご紹介します。
機械学習による自己改善
AIを搭載したロボットは、機械学習を通じて自己改善する能力を取得することが可能です。Google DeepMindのRoboCatは、シミュレーション環境で自律的に学習し、新しいタスクを効率的に習得します。
人間のデモンストレーションからはじまり、AIのファインチューニング、大量のトレーニング、データ生成、AIトレーニングという5段階のプロセスを経て、タスク成功率の大幅向上を実現できます。
複雑なタスクへの対応
近年、AIの進化により、複雑なタスクへの対応能力が飛躍的に向上しています。動的環境での高度な意思決定、マルチモーダルな情報処理と統合、そして人間とロボットの協調作業の最適化が実現されている状況です。
例えば、混雑した環境でのナビゲーションや、カメラとレーダーの情報を組み合わせた自動運転技術、さらには協働ロボットによる人間との安全な作業空間の共有などが可能になりました。これらの技術革新により、今後もロボットはより柔軟、かつ効率的に多様なタスクをこなせるようになっていくでしょう。
デジタルツインとROSシミュレーション連携がもたらすロボット開発の未来を知ろう
ROSとシミュレーションツールとの連携は、ロボット開発の効率化と高度化を促進します。実機を使わずに仮想環境で動作検証が可能となり、コスト削減や開発期間短縮が実現することが可能です。
主要なシミュレーションツールとしてGazeboなどがあり、AIと組み合わせることで自己学習や高度なタスク適応も実現します。産業用ロボットや自律移動ロボット、スマートシティなど多様な分野で活用が進み、今後もAIとの融合によりさらなる進化が期待されるでしょう。
また、3Dデジタルツイン技術を活用したゲームエンジンによるROS連携シミュレーション環境は、高品質な画像によるビジュアライズや、アセットストアなどで提供される3Dモデルの活用、カスタマイズの柔軟性など、さまざまな利点を活かして比較的容易に構築することが可能です。
シリコンスタジオでは、自動運転や自律型ロボットの研究・開発向けに、Unity、Unreal Engine、NVIDIA OmniverseによるROS連携シミュレーション環境の構築を多数手がけています。実績豊富なシリコンスタジオに是非ご相談ください。

■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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