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モデルベース開発:MILS、HILS、SILSが拓く効率的なシステム設計
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2025.04.23

モデルベース開発:MILS、HILS、SILSが拓く効率的なシステム設計

複雑化するシステム開発の効率化と品質向上を実現する手法として、近年注目を集めているのがモデルベース開発(MBD)です。
特に、MILS(ミルズ、Model-In-the-Loop Simulation)、HILS(ヒルズ、Hardware-In-the-Loop Simulation)、SILS(シルズ、Software-In-the-Loop Simulation)といった手法が、設計プロセスを革新し、開発期間の短縮とコスト削減を実現しています。
これらの手法を活用することで、実機を使用せずにシステムの挙動を正確に予測し、試作前の早期に問題を発見・解決することが可能です。

本記事では、モデルベース開発について、概要や利点/メリット、主な手法、課題と対策、応用についてご紹介します。

はじめに:モデルベース開発(MBD)とは?

モデルベース開発(MBD)とは、設計仕様を数式によってコンピュータ上に再現したモデルを作成し、開発と検証を同時並行で進める手法です。システムの機能や動作を数学的・物理的に再現したモデルをベースに設計段階から検証を繰り返して開発を進めることで、従来のドキュメントベース開発と比べて効率性が向上します。

基本原則として、モデル中心の開発、シミュレーションによる検証、デジタルツインの活用、自動コード生成などが挙げられます。特に、シミュレーションによる検証は、試作前の設計段階でシステムの挙動を予測できるため、早期の課題発見や品質向上につながるでしょう。

モデルベース開発の利点メリット

モデルベース開発の主なメリットは、以下のとおりです。

  • 効率および品質向上
  • リスク軽減
  • コスト削減

以下では、それぞれのメリットの内容をご紹介します。

効率および品質向上

モデルベース開発の活用によって、設計の初期段階からシステム全体の動作を可視化できるため、設計ミスを早期に発見し、修正することが可能です。そのため、効率と品質の向上が期待できます。また、モデルを使用したシミュレーションにより、試作や実機検証の前に設計の妥当性を確認できるため、開発プロセス全体の効率が大幅に向上します。

さらに、モデルから自動的にコードを生成できるため、コーディング作業の時間短縮と人為的ミスの削減にもつながるでしょう。そのため、短期間で高品質な製品を市場に投入することが可能になります。

リスク軽減

モデルベース開発では、実際のハードウェアやプロトタイプを作成する前に、シミュレーションとフィードバックを迅速に行えることがメリットです。多くの不具合や課題を早期に発見し、対策を講じることが可能となり、開発リスクが大幅に軽減されます。

特に、自動車や航空宇宙などの安全性が重視される分野では、デジタル環境での検証により、モデルベース開発の効果が顕著です。また、実機では難しい異常状況や極端な条件下でのテストもシミュレーションで行えるため、より包括的な検証が可能になります。

コスト削減

モデルベース開発では、試作品を何度も製作する必要がなくなるため、試作にかかるコストと時間を大幅に削減できる点もメリットです。また、設計の初期段階で問題を発見し修正できるため、後工程での大規模な手戻りを防ぎ、変更にともなうコストを抑えられます。

さらに、一度作成したモデルを他の製品開発にも再利用できるため、長期的な開発コストの削減にもつながります。

モデルベース開発の主な手法

モデルベース開発には、以下のような手法が存在します。

  • MILS(Model-In-the-Loop Simulation)
  • HILS(Hardware-In-the-Loop Simulation)
  • SILS(Software-In-the-Loop Simulation)

ここでは、それぞれの定義と特徴、使用される段階と目的、メリット・デメリットを解説します。

MILS(Model-In-the-Loop Simulation)の定義と特徴

MILSとは、仕様設計や基本設計の段階で使用されるシミュレーション手法です。開発対象となる制御装置(コントローラー)をモデル化した制御モデルと、制御対象(プラント)となるシステムや機器の動作を数学的にモデル化したプラントモデルで構成され、コンピューター上で制御処理をシミュレーションし、動作を確認します。

MILSは制御システムの動作検証を行い、仕様の精度を高めることを目的として開発の初期段階で使用されます。物理的なハードウェアが整備されていない段階でも利用できます。主なメリット・デメリットは以下のとおりです。

メリット

  • 実機を必要とせずにシミュレーションができる
  • パラメーターやシステム構成を自由に変更できる
  • システムの振る舞いをコンピューター上で即座に確認できる

デメリット

  • 実機と比べて精度が低い場合がある
  • モデルの精度を高めるためには多くの時間とコストがかかる

HILS(Hardware-In-the-Loop Simulation)の定義と特徴

HILSとは、ECU(主に自動車に搭載される電子制御ユニット)に実装されたソフトウェアを評価する、実機を模したシミュレーション環境です。ECUと接続し、リアルタイムでテストすることができます。

HILSはECUソフトウェアの試験を実機がない環境で行うことが可能です。制御装置ハードウェアの特性を含めた動作を評価することを目的として、開発の後半段階で使用されます。
以下のメリット・デメリットが挙げられます。

メリット

  • 制御対象の設定変更が容易
  • 実機に近い環境でシミュレーションが可能
  • 24時間体制での運用が可能
  • シミュレーションによる安全性の担保

デメリット

  • 実機とモデルを接続するためのハードウェアとソフトウェアが必要
  • HILS環境構築に幅広い知識や知見が必要

SILS(Software-In-the-Loop Simulation)の定義と特徴

SILSとは、制御装置と制御対象のシステム全体をソフトウェアでシミュレーションする環境です。制御コードとプラントモデルで構成された検証環境を使用します。
SILSはMILSの制御モデルから変換されたC言語などのソースコードで制御ロジックの検証を行います。

SILSはモデルからコードに置き換えたことによる影響の動作検証を行うことを目的として、MILSとHILSの中間段階で使用されます。主なメリット・デメリットは以下のとおりです。

メリット

  • MILSで作成したモデルをSILSに流用可能
  • ソフトウェアレベルでの詳細な検証が可能

デメリット

  • ECU回路、マイコン、ハーネスのハードウェア的な影響が表れない
  • 実機環境との差異がある可能性がある

モデルベース開発の課題と対策

モデルベース開発

モデルベース開発の導入には多くのメリットがある一方、いくつかの課題も存在します。ここでは、主な課題と対策についてご紹介します。

モデルベース開発の課題

モデルベース開発を導入する場合、以下のような課題が考えられます。

  • 上流工程の工数増加
  • 技術的課題
  • 組織的課題
  • リソースと変更管理
  • 予算と資源の確保
  • 法的規制への対応

モデルベース開発では、上流工程でのモデル作成や検証に多くの時間を要します。新しいツールやプロセスの習得が必要となり、エンジニアのスキル向上が不可欠です。
また、部門間の協力が重要となるため、組織文化の変革が求められることが多い傾向があります。モデルの品質確保と、適切な変更管理プロセスの整備も欠かせません。
さらに、新しいツールやトレーニングに対する投資も必要となります。特定の産業では、モデルベース開発の導入時に法的規制や安全要件への適合も求められるでしょう。

モデルベース開発の導入を成功させる方法

ここまでに紹介してきたような課題を解決する主な方法は以下のとおりです。

段階的な導入アプローチ

モデルベース開発への移行には大きく2つの方法があります。1つは従来型開発から一気にMBDへ移行する方法、もう1つはHILSの導入からはじめて徐々にMBDへ移行する方法です。企業の状況や目標に応じて適切なアプローチを選択しなくてはなりません。

効率的な人材育成

モデルベース開発の導入を成功させるためには、効果的な人材育成が不可欠です。少数の設計者から育成をはじめ、徐々に組織全体に広げていくと良いでしょう。また、外部セミナーやエンジニアリング会社の活用により、専門知識やスキルを効率的に習得できます。

既存モデルの活用

モデルベース開発を導入する初期段階では、既存のモデルを活用することで効率を上げることが可能です。市場で流通しているモデルを購入したり、MathWorks社が提供するSimScapeなどの物理システムのモデル化/シミュレーションツールを活用したりすることで、モデル開発の時間とコストを削減し、スムーズな導入を実現できます。

現場の負担軽減

モデルベース開発を導入する際、現場の負担を軽減するためには、トップダウンによる推進が効果的です。また、組織構成の見直しや、ツールの活用、検証の自動化などを通じてエンジニアの作業負荷を減らすことで、より効率的な開発プロセスを構築することができます。

継続的な効果検証

モデルベース開発の導入効果を正確に把握するためには、長期的な視点での効果検証が必要です。複数のプロジェクトを通じて継続的に効果を測定し、必要に応じて改善を行うことで、MBDの真の価値を引き出せます。

HILSの戦略的活用

HILSを戦略的に活用することで、モデルベース開発の導入をより効果的に進めることが可能です。低コストで実現できるHILSの導入からはじめ、段階的に検証プロセスを確立していくことで、リスクを抑えながらMBDの利点を最大限に活かすことが可能になります。

産業別に見るモデルベース開発の応用事例

近年、モデルベース開発はさまざまな産業で応用されており、その効果が広く認識されている状況です。ここでは、具体的な応用例を4つご紹介します。

自動車産業におけるモデルベース開発の活用

自動車産業は、モデルベース開発の活用が最も進んでいる分野の一つです。設計から製造まで多くのプロセスに革新をもたらしています。
特に自動運転や車両制御システム、パワートレイン制御、AD/ADASシステムなどの開発に広く採用されており、不具合の未然防止、品質向上、開発コスト削減、リードタイム短縮などが主なメリットです。

例えば、エンジンやモーター設計における燃費シミュレーション、故障シミュレーションによる事前評価、複数専門分野にまたがる統合的な設計プロセスの実現などに活用されています。

医療機器分野でのモデルベース開発の応用

医療機器分野では、高い信頼性と安全性が求められるため、モデルベース開発の導入が進んでいます。近年、身体への負担の検証や血液循環のシミュレーション、さらにはペースメーカーの開発などに活用されている状況です。

モデルベース開発を活用することにより、あらゆるシチュエーションの繰り返し検証や、実機テストでは困難な状況のシミュレーションが可能です。それにより、開発期間の短縮と品質向上を実現し、より安全で効果的な医療機器の効率的な開発が期待できます。

ロボット工学におけるモデルベース開発のユースケース

ロボット工学分野でも、モデルベース開発の活用が進んでいます。複雑な動作のシミュレーションと最適化、安全性の向上と検証プロセスの効率化、異なる環境下での動作検証が可能です。産業用ロボットの制御システム開発、自律型移動ロボットの動作設計、ヒューマノイドロボットの姿勢制御などでの活用ユースケースが挙げられます。

自律型ロボットアームの軌道計画とAIピッキング

MATLAB/Simulinkを使用し、ロボットアームの軌道計画やAIを活用したピッキングシステムを開発。これにより、複雑なロボット制御アルゴリズムを効率的に設計・検証可能。

人型遠隔操作ロボットの開発

モデルベースデザインを採用し、ヒューマノイドロボットのリアルタイムシミュレータの開発を促進。Simulink®とSimscape Multibody™を活用して制御システムとプラントモデルを設計し、欠陥がないコードを自動生成。

エネルギー関連産業でのモデルベース開発の導入

エネルギー関連産業でも、モデルベース開発の導入が進んでいます。例えば、村田製作所によるエネルギー管理システム制御ソフトの開発では、モデルベース開発の活用により開発期間を50%以上短縮し、欠陥のないコード生成、プロジェクト始動の迅速化を実現しました。

PIコントローラーのモデル化と閉ループシミュレーション、異常状況に対する設計評価、コントローラーモデルからのCコード自動生成などに活用されており、エネルギー管理システムの効率化と信頼性向上に貢献しています。

モデルベース開発の可能性と導入のポイントをおさえよう

モデルベース開発(MBD)は、コンピューター上に現実と同様のモデルを作成し、設計と検証を同時並行で効率的に進める手法です。MILS、SILS、HILSといった技術により、開発期間の短縮やコスト削減、品質向上が可能になります。自動車業界の車載システム開発をはじめ、医療機器、ロボット、エネルギー産業など幅広い分野で導入が進んでおり、リスク低減や最適化に貢献しています。一方で、技術習得や組織改革が課題となるため、段階的な導入や人材育成が成功の鍵です。

シリコンスタジオでは、モデルベース開発を支援する環境構築を数多く手がけています。ゲームエンジンを活用したROSやMATLAB/Simulinkとの連携によるシミュレーション環境の開発など実績が豊富です。ぜひ、シリコンスタジオにご相談ください。

■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部

自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。

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