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2025.01.29
光の挙動をリアルに再現するグローバルイルミネーション(GI) – その特徴やゲーム開発でのトレンドを紹介
フォトリアルな3Dコンピューターグラフィックス(CG)を表現する上で、光と影の表現は非常に重要な要素のひとつです。
近年、物体や壁からの間接光の影響を計算してリアルに再現するグローバルイルミネーション(GI)技術が注目を集めています。
本記事では、グローバルイルミネーションがどのような技術であるか、特長やゲーム開発におけるトレンドなどをご紹介します。
グローバルイルミネーション(GI)とは
グローバルイルミネーション(以下、GI)は、3DCGにおいてより写実的で自然な照明効果を実現するための高度なレンダリング技術です。
光源からの直接光のみを計算するローカルイルミネーション(局所照明)に対し、大域照明とも呼ばれるグローバルイルミネーションは間接光も含めて計算します。物体間の相互反射や間接光も考慮に入れることで、現実世界の光の振る舞いをより正確にシミュレートします。
関連ソリューション:Silicon Studio「『Enlighten』 – すべてのプラットフォームでリアルタイムグローバルイルミネーションを」
GIの特徴と利点
GIを採用することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
ここでは、GIの特徴と利点をご紹介します。
GIの特徴
GIの主な特徴は、以下のとおりです。
- 光の相互反射を考慮
- 無限に繰り返される光のバウンス
- 複雑な光の効果を表現
それぞれの内容を確認しておきましょう。
光の相互反射を考慮
GIは、シーン内のオブジェクト間での光の相互反射を考慮に入れます。
直接光源からの光だけでなく、物体や壁などのサーフェス(表面)で反射した間接光も計算に含められるのが特徴です。
例えば、赤い壁からの反射光が白い球体に赤みがかった色合いを与えるなど、より自然な照明効果を生み出します。
また、光が複数回反射することで、直接光が当たらない領域にも柔らかな陰影が生まれ、より豊かな視覚効果を表現することが可能です。
無限に繰り返される光のバウンス
GIにおける物体表面で反射した光は、その反射光が別の物体に当たり、さらにまた別の物体で反射する、といった過程が理論上無限に繰り返して続けられます。
無限のバウンスをすべて完全に計算することはコストが非常に高くなってしまうため、実際にGIを実装する際はバウンス回数を制限したり、重要度の高いバウンスを優先的に計算したり、完全に計算せずに近似的な手法を用いてバウンス効果を再現するなどの対策が必要です。
最新のテクノロジーでは、効率的な計算でリーズナブルなコストによる高品質なグローバルイルミネーションソリューションが提供されています。
複雑な光の効果を表現
GIを用いることで、従来の直接照明だけでは難しかった複雑な光の効果を表現できるようになります。
透明な物体による光の集中や色のにじみといった高度な光の効果も再現し、環境光や天空光といった広範囲に影響を与える光源の効果を自然に表現できます。
さらに、部屋の隅や天井の照明ボックスの陰影など、細かな陰影表現が可能になり、豊かで立体的な空間表現を実現することが可能です。
GIの利点
GIはリアルな3DCG表現を実現する上で非常に重要な技術であり、写実的な表現と高品質な間接照明という2つの主要な利点を持っています。
以下でそれぞれ解説します。
写実的な表現
GIは、現実世界の光の振る舞いをより正確にシミュレートし、極めて写実的な表現を実現できる点がメリットです。
直接光だけでなく、物体間の反射や散乱、吸収など、複雑な光の相互作用を計算します。
そのため、シーン全体が自然な雰囲気を帯びた、より現実味のある表現に仕上げることが可能です。
直接光が届かない領域でも、間接光によって柔らかい陰影が生まれ、画像全体の奥行きと立体感が増し、より自然な見た目が実現します。
高品質な間接照明
GIのもう1つの重要なメリットは、高品質な間接照明の実現です。
直接光源がない場所でも、周囲の物体からの反射光によって自然な明るさが生まれ、シーン全体が調和のとれた照明効果を持つようになります。
また屈折や散乱、回り込みなど、複雑な光の効果も計算されるため、ガラスや水などの透明な物体を通過する光の表現が向上する点もメリットです。
最新のGI技術では、リアルタイムでの光源やマテリアルの変更が可能になっており、時間や環境の変化に応じて自然に変化する照明効果を実現できます。
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GIの主な手法
GIは具体的にどのような手法を用いて実現されるのでしょうか。
ここでは、GIを実現するための主な手法をご紹介します。
ラジオシティ法
ラジオシティ法とは、拡散反射面間の相互反射を考慮して各表面の輝度を計算する手法です。
シーンをパッチと呼ばれる小さな面に分割し、各パッチの放射輝度を計算します。
一次光源からの直接光と、他のパッチからの間接光を考慮することで、より現実的な照明効果を実現できる点がメリットです。
フォトンマップ法
フォトンマップ法とは、光源からフォトン(光子)を放出し、その挙動を追跡して照明を計算する手法です。
光源から放出されたフォトンの物体表面での反射や透過を記録します。
コースティクス(集光模様)や、複雑な光の相互作用を効率的に表現できることが特徴です。
パストレーシング法
パストレーシング法とは、視点から光の経路をランダムにサンプリングして照明を計算する、モンテカルロ法※ベースの手法です。
視点から光の経路をランダムにトレースし、光源に到達するまで追跡します。
物理的に正確な結果を得られますが、ノイズの収束に時間がかかるのはデメリットです。処理時間が長いため、ゲームのGIとしては適しません。
※モンテカルロ法:乱数を用いた試行を繰り返すことで、確率論的な事象についての推定値を得る手法
ゲーム開発におけるGIソリューション
GIは主にゲーム開発で広く活用されています。
ここでは、ゲーム開発で活用されている特徴的なGIソリューションをご紹介します。
Unreal Engine 5のLumenシステム
Lumenとは、Unreal Engine 5に実装されたGIソリューションです。
動的でリアルタイムなグローバルイルミネーションと反射を提供し、高品質なライティングを実現します。
主な特徴は以下のとおりです。
- 自由度の高いGIを提供し、ライトの変更やマテリアルの変更にリアルタイムで対応
- ミドルエンドからハイエンドまで、スケーラブルな性能を実現
- 間接光や反射を高精度に計算し、フォトリアルな表現が可能
- 高いパフォーマンスを要求するため高性能なGPUを搭載したPCや次世代コンソール向けの技術
リアルタイムGIミドルウェア Enlighten
Enlightenは、リアルタイムでGIを処理する高性能なミドルウェアです。
リアルタイムリフレクションなど、GI以外の表現力向上手段も提供しています。
主な特徴は、以下のとおりです。
- ライトやマテリアルをランタイムで移動・変更可能で、即座にGIに反映
- 移動するオブジェクトもGIの影響を受けることが可能
- ミリ秒単位でGIを更新し、リアルタイムな変化を実現
- 広くて連続したジオメトリに適したライトマップと、植物などの複雑なメッシュのオブジェクトに適したプローブの2種類の設定を組み合わせて効果的な描画を実現
- モバイル、コンソール、デスクトップ、VRなど、さまざまなプラットフォームに対してスケーラブルに対応
- 事前計算(プリコンピュート)とランタイム処理の二段階処理により、ランタイムの負荷を軽減しながら高品質な照明効果を実現
関連ページ:Silicon Studio「『Enlighten』- すべてのプラットフォームでリアルタイムグローバルイルミネーションを」
グローバルイルミネーション(GI)を活用することで3DCGをよりリアルに表現
GIは3DCGで現実的な光の挙動を再現する高度なレンダリング技術で、直接光だけでなく物体間の相互反射や間接光も考慮します。
GIを活用することで、自然な陰影や複雑な光の効果をリアルに表現し、写実的な空間描写や高品質な間接照明を実現することが可能です。
主な手法には、ラジオシティ法やフォトンマップ法、パストレーシング法があり、Unreal Engine 5のLumenやEnlightenなど、ゲーム開発でもリアルタイムGIが広く採用されています。
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■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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