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2025.01.17
医療DXとは?導入によるメリットと主な取り組み
日本の医療分野もデジタルトランスフォーメーション(DX)が進みはじめました。
2024年12月から従来の健康保険証の新規発行が停止、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」への移行が加速。政府は電子処方箋を普及を目指し、医療機関への導入支援を行っています。
医療従事者の人材不足や長時間労働、医療費や介護費の増大、感染症対策なども大きな課題となる中、今回は「医療」のDXに焦点をあて、医療DXの概要、政府や医療現場における具体的な取り組みについてご紹介します。
医療DXとは
医療DXとは保険・医療・介護分野で発生する情報やデータをデジタル技術の活用によって一元管理し、必要な情報に迅速にアクセスできるようにすることで、良質な医療サービスの提供と社会全体の健康増進を目指す取り組みです。
厚生労働省は医療DXを下記のように定義しています。
医療DXが求められる背景と医療業界の課題
医療DXが推進される背景には、次のような要因があげられています。
- 医師や医療従事者の不足・地域的な偏在
- 医師の長時間労働
- 医療機関全体の効率化
- 新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた医療体制の強化
- 情報共有とデジタル化の遅れ
新型コロナウイルスの流行により日本の医療のデジタル化の遅れが浮き彫りになりました。医療体制に関しては電話やファックスなどアナログな手法では限界があり、患者の情報把握は難航しました。また、自治体や保健所、医療機関での情報共有、連携するシステム整備がされていなかったことから、遅延・不効率・不正確など様混乱を招きました。さらには連携しないシステムが急増・乱立したこともあり、医療機関や医師など現場への負担も増大することとなりました。
このような経緯もあり、少子高齢化が進む中、医療機関のみならず国全体で医療DXを推進する必要性に迫られています。
出典:厚生労働省「医療DXについて」
医療DXを推進する医療DX令和ビジョン2030とは
出典:内閣官房「医療DXの推進に関する工程表(案)(全体像)」
医療分野でのDXの方向性を示す重要施策として、2022年5月に自由民主党政務調査会から「医療DX令和ビジョン2030」が発表されました。日本の医療分野の情報共有を根本から解決するために必要な取り組みとして、次の3点をビジョンの柱として掲げています。
- 「全国医療情報プラットフォーム」の創設
- 電子カルテ情報の標準化
- 「診療報酬改定DX」
ここからは、医療DXの骨格となるこの主要のな3つの柱についてご紹介していきます。
全国医療情報プラットフォームの創設
全国医療情報プラットフォームは、医療機関、介護事業者、公衆衛生機関、自治体で現在バラバラに保存・管理されているデータを統合し、全国で共有できるようにするためのシステムです。導入が進められている背景には、医療機関の負担軽減と感染症等の脅威に対応できる体制構築があります。システムの実現には、電子カルテの標準化とセキュアなネットワークと患者情報を紐づけるための鍵=マイナンバーカードが必要とされています。
出典:厚生労働省「全国医療情報プラットフォームの全体像(イメージ)」
このプラットフォームを通じて、電子カルテ情報、特定検診情報、予防接種情報、レセプト情報、電子処方箋情報、介護情報など広範囲にわたる医療データが共有されるようになります。患者自身も必要な情報にアクセスできるようになることはもちろん、医師も他の医療機関での患者情報を確認でき、診療への活用が可能となります。
またこうした取り組みを通じて、重複する診断・検査の削減によるコストの削減や効率化が期待されています。
電子カルテ情報の標準化
電子カルテ情報の標準化とは、全ての医療情報の共有が進むように医療機関ごとに異なる電子カルテ情報の規格を統一化する取り組みです。標準化には国際標準規格の「HL7 FHIR」に準じた医療データ作成が求められ、医療情報活用が広がることが期待されています。
厚生労働省の医療施設調査によると、令和2年時点での全体普及率は約6割。カルテを扱うベンダーは複数あることなどの理由からシステム仕様の標準化があまり進んでいないのが現状です。
対象となる情報は、アレルギー情報や感染症情報、薬剤禁忌情報、救急時に必要な検査情報、生活習慣病関連の検査情報、処方情報などです。
標準化のメリットとしては、他の医療機関での患者情報の参照が容易になる、民間事業者が提供するシステムとの連携が可能になるなど、これら効果が期待されるなか、2030年までに全医療機関での電子カルテ普及を目指しています。
診療報酬改定DX
診療報酬改定DXとは、診療報酬や改定の際に発生する業務負担を軽減するために、作業の効率化をデジタル技術によって革新することを目的とした取り組みです。
診療報酬は原則として2年に1度改定が行われてきました。そのたびに新規項目の追加やコードの修正などの作業が発生することから医療機関やベンダー負担は大きいものでした。
最終ゴールは、進化するデジタル技術を最大限に活用し、医療機関等における負担の極小化をめざすことです。そのために、共通のマスタ・コード及び共通算定モジュールを提供しつつ、全国医療情報プラットフォームと連携すること、そして中小病院・診療所等においても負担が極小化できるよう、標準型レセプトコンピューターを提供することが検討されています。
厚生省の診療報酬改定DX対応方針によると、最終ゴールめざして、医療DX工程表に基づき、令和6年度から段階的に4つのテーマに取り組むことが示されています。
診療報酬改定DXの実現により、ソフトウェアの改修などを短期間で集中的に行う機会を減らし、医療機関やベンダーの業務効率化、コストの削減、負担の軽減を実現しようとしています。
出典:厚生労働省「第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料について」
出典:厚生労働省「データヘルス改革・医療DXの進捗状況について」
医療DXを推進する具体的な取組み事例
ここからは医療DXの取り組みについて、事例とともに紹介します。
オンライン診療
オンライン診療は、医療DXの重要な要素の1つです。
患者はスマートフォンやパソコンを使用して、自宅や職場から、医師の診療を直接オンラインで受けられます。通院の負担が軽減され、特に高齢者や医療資源が少なく医療機関へのアクセスが困難な遠隔地域に住む患者にとって非常に便利です。また病院へ行く必要もないため、感染症の拡大を抑制し、感染リスクの低減にも貢献します。
近年「オンライン診療システムや医療機器を搭載した自動車」が患者宅等に出向きオンライン診療などを行う国土交通省が推進する「医療MaaS(マース)」の取組が全国的に展開され始めています。
MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。
出典:国土交通省「日本版MaaSの推進」
診断支援AI
AI(人工知能)を活用した画像診断支援システムは、医師による診断をサポートし、精度の向上と業務効率化に大きく貢献します。
X線やMRI画像をAIが分析し、医師が見落としやすい微細な異常や病変を検出することで、画像診断の精度を向上することが可能です。
また、患者の過去の医療記録や最新の医学研究をAIが分析し、診断結果をサポートすることもできます。
AIによる予測モデルを使用して疾病リスクを事前に評価できるため、早期発見や健康状態から疾患リスクの傾向を検知することで未病を診断し、予防や健康改善にも役立つでしょう。
AIを使った画像診断支援の例として、国立研究開発本陣法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、昭和大学、名古屋大学、サイバネットシステム社が連携して開発した「内視鏡画像診断支援ソフトウェア EndoBRAIN」があります。超拡大内視鏡画像により、大腸病変の腫瘍/非腫瘍の判別を支援。約6万枚の内視鏡画像を学習して、専門医に匹敵する正診率98%の精度を実現しています。
出典:厚生労働省「新しいAI戦略の策定に向けて」
遠隔画像診断システム
遠隔画像診断システムは、専門医の不足や地域ごとの医療格差を是正するために欠かせないツールです。
CT、MRI、X線などの画像を遠隔地の専門医と共有できるため、画像データの効率的な活用が可能になります。
また、専門医が遠隔地から即時に画像を確認し、診断を行えるため、リアルタイムでの高度な医療サービスの提供が実現可能になると考えられています。
地方の病院でも都市部の専門医の診断を受けられるようになり、医療の質の向上が期待できます。
ロボット技術の活用
医療分野におけるロボット技術の活用は、手術の精度向上から業務効率化まで、幅広い領域で革新をもたらしています。
例えばIoTや3D技術などを活用した手術支援ロボットは、高画質の3D立体画像を見ながらの精密な手術を可能にし、複雑な手術でもより安全で正確な処置が行えるようになりました。
手術支援ロボットの例としては、米国インテュイティブサージカル社が提供する「da Vinci Surgical System(ダ・ヴィンチ)」、メディカロイド社が開発した日本初の実用型手術支援ロボット「hinotori」などがあげられます。
搬送ロボットは、医療物資、検体、薬剤などの自動搬送を行い、医療スタッフの負担を軽減し、業務効率を向上させています。
リハビリテーションロボットは、患者の身体機能の回復を促進し、生活の質(QOL)の向上に有効です。
出典:厚生労働省「オンライン診療について」
出典:国土交通省「日本版MaaSの推進」
医療DXを推進させるポイント
医療DXを推進する際には、次の4つのポイントに注意しましょう。
- 課題の明確化と適切なツール選択
- セキュリティ対策の徹底
- 医療従事者のデジタルリテラシー向上
- 患者のプライバシー保護
ここからは、それぞれの内容を解説します。
課題の明確化と適切なツール選択
医療DXを効果的に推進するためには、まず現状の課題を明確に把握し、それに適したデジタルツールを選択することが重要です。
具体的な課題の洗い出しから始め、業務効率化が必要な領域や患者サービス向上のポイントなどを特定しましょう。
次に、課題解決によって得られる具体的な成果を目標として設定します。
そして、これらの課題と目標に合致したデジタルツールを選ぶことも必要になります。
例えば、オンライン診療システムや電子カルテなどが挙げられます。
セキュリティ対策の徹底
医療情報は極めて機密性の高い個人情報であるため、セキュリティ対策は医療DXにおいて重要な要素の1つです。
患者情報や診療記録は、保存時や通信時に暗号化を施し、不正アクセスやデータ改ざんを防ぐ対策が求められます。
また、認可された医療従事者のみがデータにアクセスできるように、厳格な制御を行うことも重要です。定期的なセキュリティ監査を実施し、システムの脆弱性や潜在的な脅威を早期に発見し、対策を講じることも求められます。
医療従事者のデジタルリテラシー向上
医療DXの成功には、医療従事者のデジタルリテラシー向上が欠かせません。
新しいデジタルツールの使用方法や、デジタル技術の基礎知識に関する研修を実施することが望ましいといえるでしょう。
導入後も疑問や問題に対応できるサポート体制を整えることで、医療従事者が安心してデジタルツールを活用できる環境を作ります。
デジタルツールを効果的に活用している成功事例を共有し、モチベーション向上につなげることも効果的です。
患者のプライバシー保護
医療DXを進める上で、患者のプライバシー保護は重要課題の1つです。
患者の個人情報を利用する際は、明確な同意を得なくてはなりません。
また研究や分析に使用する際は、個人を特定できないようデータを匿名化する必要があります。
誰がいつどのデータにアクセスしたかを記録し、不正アクセスを防止するためのアクセスログ管理も重要です。さらに、個人情報保護法や医療分野特有の規制を厳守することで、法令遵守を徹底する必要もあります。
医療DXを推進して医療現場の課題を解決
医療DXは、デジタル技術を活用して医療・介護分野の情報を最適化し、質の高い医療と効率化を実現する取り組みです。
オンライン診療、AI診断、遠隔画像診断、ロボット技術などの活用が推進され、患者の利便性向上や業務効率化、コスト削減が期待されます。
電子カルテ標準化や全国医療情報プラットフォームの整備による情報共有が進み、地域格差解消やBCP強化にもつながるでしょう。
医療DXを導入するうえで特にポイントとなるのが、課題明確化、セキュリティ対策、デジタルリテラシー向上、プライバシー保護です。導入する際はしっかりと把握しておくことが望ましいでしょう。
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■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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