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2024.10.16
フォトグラメトリとは?3Dモデルを作成できる技術について知ろう
大学などの教育機関や研究機関で3Dモデルを使う仕事に携わっている方であれば、すでにフォトグラメトリを活用されているかもしれません。
フォトグラメトリは学術用途以外でも、近年さまざまなシーンで普及が進んでおり、注目を集めている技術です。
本記事では、3Dコンテンツ制作の効率的かつ効果的な手法として期待されているフォトグラメトリについてご紹介します。
フォトグラメトリとは
フォトグラメトリとは、日本語にすると写真測量法という意味の言葉で、複数のデジタル写真を使って対象物の3次元情報を得る技術です。デジタルカメラで対象物を多面的に撮影した複数の写真を使用し、コンピュータを用いて解析します。解析結果から3Dコンピュータグラフィックスなどの3次元データを生成するのが一般的です。
フォトグラメトリが注目を集めている主な理由
フォトグラメトリを活用することで、さまざまなメリットが得られます。ここでは、フォトグラメトリが注目を集めている主な理由をご紹介します。
低コストで高品質な3Dモデルの作成が可能
フォトグラメトリは、3Dスキャナよりも低コストで3Dモデルを作成できる手法です。カメラとパソコンがあれば、立体的な対象物を撮影し、高品質なモデルを生成できます。特に小規模なプロジェクトや、個人の制作に適している技術です。
フォトグラメトリの主なプロセスは、複数の写真を撮影し、それらをソフトウェアで合成することによって3Dモデルを作成します。専用の3Dスキャナを使用するよりも費用対効果が高いため、多くのクリエイターや研究者に利用されています。
リアルな表現力
フォトグラメトリは写真から合成するため、3Dモデルはリアルな外観を持つのが特徴です。色味や細部を細かく表現できるため、建物、風景、アート作品などのリアルな質感を再現できます。例えば、歴史的な建物のフォトグラメトリを行うと、その建物の細部や装飾が精密に再現され、文化遺産の保存にも役立つでしょう。
幅広い対象物に適用可能
フォトグラメトリは小さなフィギュアから大きな建物まで、さまざまな対象物に適用できます。同じカメラ設定で対象物をさまざまな角度から撮影し、3Dモデルを作成できるため、柔軟性の高さがメリットです。
例えば、考古学者は遺跡の調査でフォトグラメトリを使用し、立体的な地形や遺物のモデルを作成しています。
テクノロジーの進歩
フォトグラメトリのソフトウェアは日々進化しており、一般の人でも扱えるようになっています。自動化されたプロセスやクラウドベースのサービスも増えており、利用しやすくなってきました。また、AI技術の発展により、写真からの3Dモデル生成がさらに高度化しています。アプリを使用することで、高解像度のカメラを搭載したスマートフォンでも手軽にフォトグラメトリを生成することが可能です。
多様な活用分野
フォトグラメトリは、さまざまな分野で活用できる点も特徴です。例えば建築業界では、建物の設計や改修プロジェクトでフォトグラメトリが活用されています。建物の外観や内部空間を精密にモデリングすることで、設計段階から問題を特定することが可能です。
このほかにも、文化遺産の保存や再現、ゲームや映画の制作、アート作品のデジタル化、教育分野などでも利用されています。
アクセシビリティの向上
フォトグラメトリは写真撮影という簡単な手段で測量できるため、手軽に3Dデータを作成できます。専門知識がなくても、誰でも利用できる点が魅力です。
例えば、建築家やデザイナーは、フォトグラメトリを使用して既存の建物や環境をモデリングし、改修やアクセシビリティの改善を計画できます。
フォトグラメトリと3Dスキャンの違い
フォトグラメトリと3Dスキャンはどちらも3Dモデルを作成するための技術ですが、方法や特性などで異なる点があります。ここでは、フォトグラメトリと3Dスキャンの違いを確認しておきましょう。
コストと機材
フォトグラメトリに必要な機材は、一眼レフのような高性能なカメラとパソコン、そして専用のソフトウェアです。ただし、フォトグラメトリは比較的手軽に始められる一方で、高精度な再現は難しいことがあります。
3Dスキャンは、対象物にレーザーやセンサーなどを当てて被写体の表面をとらえ、立体的に物体を作成する技術です。高性能な3Dスキャナが必要で、細部までこだわって再現できます。3Dスキャンは精度が高い一方で機材が高額です 。
精度
フォトグラメトリは写真から読み取るため、寸法はあまり正確ではありませんが、テクスチャの再現性が高い点が特徴です。ただし、形状の精度は3Dスキャンに比べて劣ります。
一方、3Dスキャンは正確に形状を読み取れるため、精度が高いです。
用途の幅
フォトグラメトリは、さまざまな角度から被写体を撮影し、リアルな3DCGコンテンツを制作することが可能です。一般的には100枚前後の写真が必要となりますが、建築やゲーム制作などで活用されています。
3Dスキャンは物体の形状やテクスチャを読み取り、リアルな3Dモデルを作成できる点が特徴です。産業設計や医療分野などで、広く使用されています。
どちらの技術も用途に応じて選択されますが、フォトグラメトリは手軽に始められる一方、3Dスキャンは高精度な再現が求められる場合に適しているでしょう。
フォトグラメトリの活用事例
フォトグラメトリは、実際にはどのように活用されているのでしょうか。ここでは、フォトグラメトリの活用事例を6つご紹介します。
みんなの首里城デジタル復元プロジェクト
「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」は、2019年10月31日に発生した首里城の火災を受けて立ち上げられたプロジェクトです。さまざまな場所から撮影された写真や動画をもとに3Dモデルを作成し、首里城の復元を試みています。
具体的にはコンピュータ・ビジョンの技術を用いて、写真やビデオの映像から実在する物の形や色を復元することを目指しています。完成した3DモデルはARやVRなどで疑似体験できるため、実物が再建されるまでの間、観光資源として活用されるそうです。
Peris Digital
Peris Digitalは、スペインのマドリードに本社を置く企業であり、Peris Costumesの子会社です。700万点以上のアーカイブから希望に合った衣装を選び出し、3Dデジタル衣装としてTVや映画のVFXアーティストや衣装デザイナーに提供しています。
フォトグラメトリ技術を駆使して高品質なデータを生成し、実写と遜色ないリアルな世界観を再現しているのが特徴です。
九州大学
九州大学「3Dデジタル生物標本」: https://sketchfab.com/ffishAsia-and-floraZia
九州大学は、世界に先駆けて「3Dデジタル生物標本」を1,400点以上オンラインで公開しています。同プロジェクトでは、フォトグラメトリを活用して生物標本を生鮮時のカラフルな状態で3Dモデル化しました。
この手法は、九州大学持続可能な社会のための決断科学センターの鹿野雄一特任准教授によって「バイオフォトグラメトリ」と名付けられました。
株式会社JMC
株式会社JMCは、株式会社MIXIDIAが運営するフィギュア作成サービス「3D SNAP」と提携しており、人物やペットの3Dスキャンに対応しています。同サービスでは、フォトグラメトリ専用ブースを使用して、写真から3Dデータを作成し、その後3Dプリントでフィギュアを製作しています。
フォトグラメトリを活用したフィギュア制作は、ペットや子どもの思い出を形に残す新たな手段として注目されているそうです。
TechFirm
TechFirmは、最新の3D技術である「3D Gaussian Splatting」を活用し、ECサイトでの顧客体験(CX)を向上させる取り組みを進めています。従来はフォトグラメトリ技術を用いて個々のアイテムを撮影し、3Dモデルを生成していました。しかし、ユーザーがアイテムをより具体的にイメージできるよう、人間が実際に着用した際のトータルコーディネートの再現に注力しています。
3D Gaussian Splattingは、複数の角度から撮影された画像データをもとに3D空間を学習し、リアルタイムで3Dシーンをレンダリングする技術です。フォトグラメトリと比べて、撮影対象に対する制約が少ないため、トータルコーディネートでの3Dモデルの生成が可能になります。
CGSLAB合同会社
CGSLAB合同会社は、フォトグラメトリ技術を駆使したプロジェクトに取り組んでいます。特に青森立佞武多の制作では、HDRブラケット撮影を採用し、Photomatix ProでHDR現像を行い、RealityCaptureでフォトグラメトリ処理を実施しました。
また、UDIMテクスチャを用いたテクスチャリングや、SonyカメラのS-Logを活用したACESカラー変換の検証も行っています。
シリコンスタジオではフォトグラメトリを活用した3DデジタルツインによるDX支援が可能
シリコンスタジオでは、フォトグラメトリを活用した3DデジタルツインによるDX支援を行っています。
以下では、具体的にどのようなサポートが可能なのかを紹介していきます。
点群データと写真データを合成することでクオリティーを向上
以下、4つの手順を踏むことで、フォトグラメトリの品質向上を実現します。
[1] レーザースキャナによる外観の撮影(3D点群データの取得)
レーザースキャナを使用して物体の外観を撮影し、3D点群データを取得します。物体の形状や、表面の詳細な情報をデジタル化するために必要な作業です。
[2] 一眼レフカメラによる撮影(建物の形状、色情報の取得)
一眼レフカメラを使用して、建物の形状や色情報を撮影します。これにより、建物の外観や材質をデジタルツインに反映させることが可能です。
[3] フォトグラメトリ作成
点群データと写真データを合成して、フォトグラメトリを作成します。
[4] 手作業で修正(ガラス部分など)
デジタルツインには自動生成では再現しきれない部分があるため、手作業で修正を行います。例えば、ガラス部分などの細かいディテールを追加・修正することが可能です。
以上の作業を組み合わせることにより、高品質な3Dデジタルツインを実現しています。
建物内部の再現例。上から、実写素材、点群データ、CGで再現したデータ
参考情報:Silicon Studio「DXを実現させる3Dデジタルツイン。導入までのステップを知っておこう」
参考情報:Silicon Studio「デジタルツインとは?使われる技術と活用事例を解説」
低コストで幅広い分野に活用できるフォトグラメトリ
フォトグラメトリは、複数の写真から3Dモデルを生成する技術で、低コストでリアルな表現が可能です。建築やゲーム制作、文化遺産の保存など多分野で活用され、手軽に始められるのが特徴です。3Dスキャンと比べて精度は劣りますが、テクスチャの再現性が高く、幅広い対象物に対応できます。
シリコンスタジオでは、フォトグラメトリの活用を支援する技術を数多く提供しております。フォトグラメトリによる課題解決を検討したい方は、お気軽にご相談ください。
■著者プロフィール:シリコンスタジオ編集部
自社開発による数々のミドルウェアを有し、CGの黎明期から今日に至るまでCG関連事業に取り組み、技術力(Technology)、表現力(Art)、発想力(Ideas)の研鑽を積み重ねてきたスペシャリスト集団。これら3つの力を高い次元で融合させ、CGが持つ可能性を最大限に発揮させられることを強みとしている。
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